作品タイトル不明
53「一登の懐深くね?」
「だって、まさかネット上とは言えプライベートで仲良くしている男の子と、こんなタイミングで出会うなんて思ってもいなかったんです。もっと言うと、中学生だったなんて。チャットしたりお話したりしたくらいで捕まらないですよね?」
「あのさ、太陽神が国家権力にビビらないでくれますか?」
スウェット姿に戻った天照大神が、一登をちらちら見ながら言い訳をしている。
夏樹個人としては中学生が大人と付き合っても、ちゃんと好き同士ならいいと思っている。だが、天照大神と一般中学生を一般的な交際のカテゴリーに括っていいのかどうか悩む。
「というか、お二人は会ったことはないみたいだけど、ネット上で顔を合わせたこともないんだ?」
夏樹はあまりネットゲームなどはしないが、その気になれば携帯やパソコンでチャット通話ができることや、顔を突き合わせて話すこともできることくらい知っている。
ふたりは首を横に振った。
「知り合ったって言っても、俺と照子ちゃんはあくまでもゲームと、ちょっとプライベートでメッセージのやり取りをするくらいだったから。たまに電話して、お互いの親族の愚痴も言っていたけど、特別顔を見せ合おうなんて思わなかったよね」
「そ、そうですね、興味がなかったと言ったら嘘になりますけど、こんなだらしないおばさんだと知られたくなくて」
「……じゃあ、もっとしゃんとすればいいのに」
つい夏樹がぼそっと呟くと、一登以外が「うん、うん」と同意するように頷く。
「さーせん」
あと、せっかく身なりを整えたのに、なぜ毛玉だらけのスウェットに再び着替えたのかも気になる。が、もうスルーしておくことにした。
「世の中って不思議だよね」
一登が苦笑して、みんなの視線が向く。
彼は、特別、天照大神に引く素振りもなく、いつも通りの自然体だった。
「一昨日、霊能力者とか、神様とか魔族とかに巻き込まれたと思ったら、仲良くしていた照子ちゃんが神様っていうか、天照大神様かぁ。もう、すごいなぁって感想しかないよね」
「あ、あの、カズくん」
「はい?」
「げ、幻滅しましたよね?」
恐る恐る尋ねる天照大神。
誰もが、ごくり、と唾を飲んだ。
特に水無月家にとって、天照大神とのこれからがある。一登にできることなら、嘘でもいいから褒めちぎってくれ、と願っていた。
だが、一登の返答は夏樹たちが予想しないものだった。
「幻滅? なんで? 照子ちゃんはそのままが素敵だよ」
「ふえ?」
「神様っていうのにはびっくりしたけど、そのくらいかな? 俺と話をしていたときと変わらない、少しお茶目で、かわいい人だと思うよ!」
(一登くんすげー)
夏樹は感動した。
天照大神の言動と姿を見て、ありのままを受け入れることが中学二年生にできるだろうか。
否。中学生なんて、どうしても外見を重視する子が多いはずだ。
しかし、一登は違った。貞操観念の緩い兄を持っているせいか、外見でしか女性を選ばない兄の言動を見ているせいか、決して他者を上辺の外見ではなく、ちゃんと中身を見るいい子だった。
「――え? なにこの子、神ですか? 尊い、しゅき」
「いや、神様はあなたっすけどね。でも気持ちはわかります。見た目も言動も可愛い男の子は神っす! まあ、自分にとっては夏樹くんっすけどね!」
「さすが銀子ちゃん」
「ふふふ、照子さんも変わってなくてなによりです。高校時代、伝説の同人誌を創っただけはあるっすね」
「ふひひ」
「ぐへへ」
なにやらシンパシーを覚えたような銀子が、鼻血を垂らしていた天照大神と握手を交わす。
「こいつらきんもー!」
引いている小梅に、つい同意しそうになってしまったが、必死に夏樹は耐えた。
「…………それで、この収拾は誰がどうやってつけるの?」
夏樹が、天に祈ったときだった。
「大変申し訳ございませんが、勝手にお邪魔します。身内がお馬鹿なことをしていると報告があったので、叱りにきました」
水無月家の応接間の襖が勢いよく開くと同時に、夏樹の中学校の先生であり、天照大神の弟である月読命が、額に青筋を浮かべて現れた。
「――神降臨!」
夏樹は万歳して、月読の登場を喜んだ。