軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

51「偽物じゃね?」③

水無月家の応接間に移動した面々。

ぴこぴこゲームをしている天照大神を放置して、夏樹は水無月家の面々に天照大神の要望を伝えた。

「……つまり、お腹に溜まる食事と、お酒を奉納させていただければそれでいいのでしょうか?」

「あとネット環境です。一番重要みたいです」

「……わ、わかりました。お酒とネットは詳しくないのですが、なんとかしてみます」

茅は、できるだけ天照大神に視線を向けないようにしながら、なんとか声を絞り出している。

当たり前だが、先代土地神みずちはこんなしょうもない要求はしてこなかったのだろう。

星雲相談役は「まあ、神様にも嗜好品は必要だよな」と納得しているようだが、雲海は「…………」沈黙を続けているが額に青筋が浮かんでいる。そろそろ限界かもしれないが、相手が相手なだけに必死で我慢しているようだ。

都と澪は夏樹へのお土産を渡すために、部屋に取りに行っているのでこの場にはいない。

「にしても、この駄目女神は本当に土地神業務ができるんか? こんなんに任せるくらいなら、土地を放置していたほうがマシじゃろう。こやつと比べたら、末端の神のほうがよほどありがたみがあるじゃろうて」

「…………」

小梅が天照大神にそんなことを言うと、彼女は携帯ゲーム機から顔を上げて、まじまじと小梅の顔を見る。

「……なんじゃ? やるんか?」

「もしかして、小梅さんじゃないですか?」

「気づいとらんかったんか!」

「いやいや、気づかないですって。自分と会ったときには、可愛らしいお嬢様だったのに、なんでこんなことに……遅い反抗期ですか?」

「クソ親父のせいでいろいろあったからのう! そりゃ反抗もするじゃろうて!」

「あー。自分が引きこもるのと一緒ですねぇ」

「お前と一緒にすんな!」

夏樹は額に手を当てて天を仰いだ。

せっかく小梅の正体を隠そうと力を抑えてもらっていたのに、天照大神と知り合いということがバレてしまい水無月家の面々が目を丸くしている。

天照大神と小梅が会ったことがあると聞いていたのだが、向こうが小梅に関わってこなかったのでこちらを察して気づかないふりをしてくれているのかと思っていたのだが、そんなことはなかった。

「……改めて昔の小梅さんがどんなだったか気になりますよね」

「うん。超気になる」

左隣にいた銀子が耳打ちしてきたので、夏樹は深々と頷く。

「あ、あの、夏樹様……そちらの美しい女性は……まさか」

「……ええ、まあ、人じゃないです」

「その、お名前をお聞きしても問題はないのでしょうか?」

夏樹が小梅を窺うと、彼女は胸を張ってキメ顔をした。

「ルシファーさん家の小梅様じゃ!」

「ルシファー!?」

「一応、誤解のないように言っておきますが、魔王ではなく天使のルシファーさんです。魔王は小梅ちゃんのお父さんです」

「……る、ルシファーで魔王とは……まさか」

「サタンさんです」

茅、星雲、雲海が、深々とその場に平伏した。

恭しく頭を下げられた小梅は、なぜかご満悦だ。

「うむ。苦しゅうない、面をあげい!」

「――はっ」

「俺様はルシファーだが、今は由良さんちの可愛い小梅ちゃんじゃ。天使は休業中なんじゃから、そのつもりで頼むぞ。ただ、この駄目女神に言うことを聞かせたいのなら、気軽に頼んで来ればいい。俺様は、日本の神々と違ってやりたいようにやるからのう!」

「……なにかございましたら、是非にお力をお貸しくださいませ」

「おう!」

その後、話は進む。

お酒に関しては、夏樹と銀子のお勧めでリカーショップ花丸を利用してもらうことになった。

飲兵衛な銀子と小梅がこっそり天照大神と話をして、どんな銘柄が良くて、どんな酒が好みなのか話をしてくれたので、注文しておくという話になった。

茅は酒を飲まず、星雲相談役は日本酒が好きなようで洋酒はあまりわからないらしい、雲海も酒は飲まないようなので、任せてくれるそうだ。

ネットは、水無月家にも引いてあるようで、都と澪が機械に疎い母に代わりプランを決めてあるそうだ。ネット回線に関しては姉妹に放り投げることにした。

「あの、すいません」

そろそろ話も終わりかなと言う頃、一登が恐る恐る手を挙げた。

「どうかしましたか、三原様」

「あー、その、天照大神様にお尋ねしたいっていうか、話しかけていいのか悩んだんですけど」

茅が天照大神を窺うと、彼女は「どうぞー」と返事をした。

「さっき、クソ脳筋愚弟って言っていましたよね」

「……え、あ、はい。言ってましたね。いるですよ、クソ脳筋愚弟の素盞嗚尊とかいうのが。お嫁さんはしっかりした素晴らしい方なんですけど、よくまー、あんな男に惚れたのかって感じで」

「やっぱり」

「え? なんです?」

「もしかして、ゲームの中で照子ちゃんって名前じゃないですか?」

「……なぜ自分の魂の名を」

「俺、カズくんです」

「――え?」

天照大神が硬直した。

夏樹たちは意味がわからず、はて、と首を傾げる。

「ゲームの中でも話していたし、普段もメッセージで話しているんだけど、合ってますよね? よくクソ脳筋愚弟って言うから、もしかしてって思ったんだけど」

「……ま、まさか、クソ兄貴に迷惑かけられているカズくん?」

「う、うん」

どうやらふたりはゲームを介した知り合いのようだ。

世間は狭いというが、狭すぎる気がする。

「おい、この駄目女神が急に雌の顔をしたんじゃが」

「急に雌顔になった女神にどう反応すればいいんすかねぇ」

「ふたり揃って言わなくてもいいから!」

まさかとは思うが、先ほど天照大神が「王子様」と言っていたのは一登かもしれない。

春の暖かな陽気のはずが、夏樹は冷たい汗を流した。

次の瞬間、

「ぎゃぁああああああああああああああああああああああああああああああ!」

天照大神が女神とは思えない絶叫を放った。