作品タイトル不明
50「偽物じゃね?」②
「わざわざ来てもらってすんません。自分、神っぽくないみたいで、いや、わかっているんですよ。スウェット標準装備の神なんかいねーよ、なんなら魔族だっていねーよ、と突っ込みたいでしょうね。でもね、ここにいるんすよ。天岩戸だってスウェットあったらずっと引きこもっていられましたから。ゲームだってあったら、現代まで出てこない自信あります」
「うん。世界は闇に包まれるよね!」
天照大神の私服にびっくりした夏樹たちだが、こんな感じの人はたくさんいる。
ただ太陽神がこれでいいのか、と思わずにはいられないが、太陽神だってスウェットが好きでいいじゃないと思うことにした。
(それにしてもさすが天照大神だぜ。スウェットは毛玉だらけで、サンダルなんてスーパーで売ってそうな謎メーカーのものだ。靴下なんか左右で色違うし。良くも悪くもだらーっとした日本人を体現している。外見はお姉さんだけど、中身はおばちゃんか、下手すりゃおっさんだな)
「いやー、君が例の少年なんですね。可愛い顔してなかなか強いですねぇ。月読とはすでに知り合っているようですけど、もうひとりの愚弟とは関わんないほうがいいですよ。あの脳筋クソ愚弟は絶対喧嘩しようぜとか絡んできますからね。嫌だとか言っても無理やり襲ってくるかもしれねえです」
「きっと素盞嗚尊だよね! さすがに俺、素盞嗚尊と喧嘩したくないんですけど!」
「ひひひ。クソ愚弟にそれが通用するといいですねぇ。最悪、月読に言ってくださいな」
「そうします」
さっそくとばかりに夏樹と会話をする天照大神。
銀子は「あれ? どこかでみたことがあるような」と首を傾げ、小梅は「こいつなーんもかわっとらんなぁ」と呆れ顔、一登は「んんん? 脳筋クソ愚弟って言い方どこかで」と呟いている。
水無月茅は笑みを作ろうとして失敗しているし、都と澪もどういう顔をしていいのかわからないようだ。星雲と雲海に至っては、自分たちの中の天照大神像が破壊されているようで乾いた笑いしか出てこないようだ。
「それで、どうして俺を?」
「それです! 自分、土地神業務をすることになったんっすけど、水無月さん家にいろいろお願いしたいことがあって。でも、なんというか頼みづらいんすよね」
ちょいちょい、と手招きされて夏樹と天照大神は、みんなから少し離れた場所にしゃがんだ。
「あんまり催促みたいなことをしたくないんですけど、奉納的なものがほしいんです」
「ご飯とか?」
「いやいや、さすがにご飯はなにも言わずに食べさせてもらいましたよ」
「あ、そっか。昨日くらいに降臨してるんだもんね」
「ご飯は美味しかったんですけど、きっと前任さんが質素な方だったんですね。大豆系のおかずばかりだったんです」
「ヘルシーでいいじゃない。俺の見たところ、スウェットの下は……」
「おっと、少年。いけませんよ。それ以上言うと、秘密組織に消されますよ?」
「秘密組織いるの!?」
「そんなことはどうでもいいんです。古代日本ならさておき、現代日本で生活したいのなら、魚や肉も食べたいです。ハンバーガーとかポテトも食べたいです」
「……いいのか、神様?」
「いいんですよ! 月読だって毎日お手製のお弁当作ってSNSにアップしているんですから!」
「月読先生そんなことしているんだ。あと、自炊しているのね」
「クソ素盞嗚尊なんて毎日高級ステーキっすよ!」
「いいもの食べてるなぁ、素盞嗚尊!」
「ですから、自分にもお腹にたまるものを出してほしいとお願いしてください」
「自分で言いなよ」
「無理ですって。それじゃなくてもスウェットで降臨して「うわ」みたいな顔されちゃっているのに……」
「じゃあ、ちゃんとした格好でくればよかったじゃない」
「そういう選択肢もあったんですが……サイズがね……ふひひ」
「あー」
「あとですね、ついでにお酒が欲しいんです。あとネット環境っすね。テレビとゲームは自前のがあるんで、問題ないっすけど、やっぱりネットはお願いしないと」
「おい、引きこもる気満々じゃねーか」
「言っておきますけど、これでも名のある神ですから、土地神業務なんて片手間ですって。前任さんは人間に肩入れしていましたけど、普通は最低限のお仕事でいいんですよ。残った時間は、ゲームしながら菓子食って酒飲んでのんびりです」
「うわぁ」
「自分だって働きたくなかったんですよ? でも、パパとママが働けって。本当は神域に引きこもってネットゲーム三昧だったのに」
「うわぁ」
「いえね、一応、ときどき、あ、このままじゃやべーなー、と思って女子高生したり、OLしたこともあるんですけど、やっぱ引きこもるの最高っすよ」
「うわぁ」
「もう、うわぁ、しか言ってないですけど?」
「それしか言えないんだよ!」
「中学生に引かれる自分……でもそんな自分が嫌いじゃない。んじゃ、引かれたついでに、奉納はお酒もお願いして欲しいとお伝えしてください。基本は糖質オフのビールがいいんですけど、ウイスキーと炭酸もお願いします」
「糖質気にする神様って嫌だなぁ」
「さーせん。でも、君もおっさんになればわかりますって。あとですね、週末や月末とかはちょっといいウイスキーとか、いも焼酎とか奉納してくれると自分的には嬉しいです」
「もうゲームして飲んで、ダラダラする気満々じゃん!」
嫌だなぁ、こんな太陽神、と夏樹は顔を引き攣らせている。
これで単純な力は自分よりも数倍以上あるのだからやっていられない。
「……それにしても、女神様とこんなに接近しているのにまったくドキドキしない」
「悪かったですね! それに、自分には運命の王子様がいるんで、彼氏募集中ではないんです!」
「王子様って」
「毎日、ゲームの中で挨拶するんですよ。自分はクソ愚弟に悩んで、彼はクソ兄貴に悩んでいることで意気投合しちゃったんです。知り合って一年くらいですかね。そろそろ相思相愛じゃないですか」
「すげーどうでもいいですぅ」
「……自分の恋バナさえ聞いてもらえない、ひひひ」
「あ、すみません。お詫びと言ってはなんですけど、異世界でドワーフ族からぶんどったお酒があるんですけど」
「――はい、加護ー!」
「あげるなんて言ってないですけどね」
「加護剥奪ー!」
「嘘ですって。はい、どうぞ。俺はお酒に興味ないんで」
酒の入った陶器をアイテムボックスから取り出して渡すと、天照大神は嬉しそうに頬擦りする。
「いやぁ、異世界のお酒なんて初めて飲みますねぇ。今晩楽しませていただきます。ふひひ」
お酒好きな小梅や銀子に飲ませてあげてもいいかなと思っていたのだが、異世界の酒でなにかあっても困るので隠していたのだ。天照大神なら大丈夫だろうと特に考えなく渡してしまった。
(えっと、とりあえず肉と酒を奉納してくれって俺が言わなきゃならないんだけど、言い辛ぇ! 魔王ぶっ飛ばす方が楽だぞ!)
こちらを心配そうに見つめている水無月家の皆さんに、どう説明したものかと夏樹は頭痛を覚えるのだった。