作品タイトル不明
9「試練じゃね?」②
出来上がったシイラのムニエルはとても美味しそうだった。
「……まさかガスコンロの代わりに炎の神さんのお腹の上でクッキングが始まるとはさすがのなっちゃんも思わなかったなぁ」
「油が跳ねて火傷しちゃった」
「普通に手で炎を出すとか、その辺のものを燃やすとかできたよね!? フライパンと包丁があったんだから、なんとかできなかったのかな!?」
「なっちゃんの心の中にあるものを燃やしてもいいの?」
「よくないの!?」
「多分、よくないと思う。気にしないなら燃やすけど」
「やめて! そっか、燃やしたらまずいのか。勉強になります」
炎の神の指摘を受け、夏樹は学んだ。
「じゃあ、この世界のことをもっと知りたいので、僕、探検してくりゅ!」
「まーまー、なっちゃん。マヒマヒのムニエルを食べてからでも遅くなって」
「……よく考えたらさっきお昼ご飯を食べたばかりだったんだ」
「夢の中だから平気だって! その可愛いお口で俺のマヒマヒをたっぷり味わってくれよ」
「……なんか言い方がいやぁ!」
テーブルに並べられたシイラのムニエルを、すでに陽キャの神と炎の神は食べていた。
大地の神は、苦々しい顔をして、「大丈夫なのか、本当に?」と端を持ったまま悩んでいる。
(ふんどしから塩胡椒を出した大地さんが一番まともっぽいけど、ふんどしの中がまともじゃないんだよなぁ。ちょいちょい祐介くん要素あるよなぁ!)
夏樹としては、この世界のものを口にするよりも、大地の神に大変申し訳ないがふんどしの中から取り出した塩胡椒で味付けされたムニエルを口にすることのほうが抵抗があった。
夏樹も年頃の男の子だ。
異世界に行く前に、パンツからものを取り出して「アイテムボックス!」と叫んで一登を爆笑させたものだ。だが、それとこれとでは違う。
ただ、「美味しいって言ってくれるかな?」と期待の眼差しを向けてくる陽キャの神を邪険にしてはいけない雰囲気もある。
(――河童大神様、俺に力をください!)
夏樹は勇者だ。
勇気ある者と書いて勇者なのだ。
(――俺はふんどしから出てきた塩胡椒なんかに負けない!)
箸を握りしめた。
(――そう、このチョップスティックは聖剣だ。なっちゃん、いきまーす!)
ムニエルに箸を伸ばした。
「おい、無理をしなくてもいいんじゃないか」
大地の神が気を使ってくれるが、男は度胸だ。
腕が震えてしまうのを勇気で耐えながら、ムニエルを口に運んだ。
「――おいちぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
本当に美味しかった。
涙が出るほど美味しかった。
(――お母さん、俺、ちょっと大人になったよ)
この日、由良夏樹は勇者として一皮剥けた気がした。
■
結局、夏樹がムニエルを食べたことで大地の神も渋々ムニエルを食べた。
美味しかったが、もうお腹も心もいっぱいだ。
できれは早く現実世界に帰してほしかった。
この常夏のビーチでに時間はいつまで続くのだろうか。
「さてと、こうやって交流を深めたところで――新たな神々の話をしようぜ」
陽キャの神が夏樹の目を見て、真面目な声でそう言った。