作品タイトル不明
8「試練じゃね?」①
――由良夏樹は餌釣りからルアー釣りまで、海でも川でも田んぼの脇の用水路でも釣りをする釣りボーイである。
「正直、俺が釣ったことのあるシイラよりもでっけーシイラを捕まえてきた陽キャの神に嫉妬しか覚えないんですけど!」
夏樹は夏になると回遊してくるシイラを堤防や浜から狙うことを好んでいる。
必ずしもシイラが釣れるわけではなく、ターゲットとなる夏の回遊魚はソウダガツオをはじめサバ、ワカシ、イナダ、太刀魚、そしてシイラだ。
必ずしも狙った魚が釣れるわけではないのだが、狙いを定めて釣りをして目的の魚が釣れた時の喜びは凄まじい。
夏樹がシイラを釣ったことは何度かあるが、大半が五〇センチ未満の幼魚ペンペンだった。唯一、シイラと胸を張って呼べるサイズが七五センチだ。
だが、陽キャの神が持つシイラは一〇〇センチを超えている。
「――なっちゃん」
「あんだよ」
「食べるかい?」
「たべりゅ!」
「あいよ!」
にっ、と白い歯を見せた笑みを浮かべた陽キャの神がシイラを手に持ちサムズアップする。
夏樹も親指を立てて応じた。
「待て待て待て待て! この空間に魚がいるのは驚いたが、食べるのか!? というか、食べられるのか!?」
ふんどしを装備している以外はまともな大地の神がツッコミを入れるが、特に気にしていない陽キャの神は「へーきへーき!」と笑う。
すると、炎の神もどこからかまな板と包丁、そしてフライパンを準備して親指を立てていた。
「カモン! 僕はお腹減っているのに、風の神がいつまで立っても売店から帰ってこないから、もうシイラでいい」
「マヒマヒって言ってくれよぉ」
「……マヒマヒ」
「マハロー!」
ハワイ語で「ありがとう」と言った陽キャの神が手早くシイラを三枚に下ろしていく。
もうこうなったら止められないと理解したのだろう。
大地の神は大きく嘆息して、それ以上何も言わなかった。
「……大地さん、あのさ」
「どうした?」
「聞くの忘れていたんだけど、俺の中に売店ってあるの?」
「あるぞ」
「なんで!?」
「さすがに俺が知るわけがないだろう。この世界は我々が、いや、主に海の神が由良夏樹に接触したことで生まれたお前の心の中の風景だ」
「絶対九割くらい陽キャの神の心の中の風景だと思う!」
「いや、違うぞ。奴の場合は、荒々しい海だ。このような穏やかな風景ではない」
「そんな馬鹿な!」
まさか自分の心の中に常夏のビーチが広がっているなんて夏樹は到底受け入れられなかった。
「大地の神、塩胡椒出して!」
「……調理をするならしっかり準備をしろ」
そう文句を言いながら、ふんどしの中から塩胡椒を取り出し、手渡す。
「マハロー! んじゃ、ムニエルっときますか!」
「待って、陽キャの神さん! し、塩胡椒は抜きでも良いのではないでしょうか――って、ああっ、振っちゃった!」
大地の神のふんどしから取り出した塩胡椒を何の躊躇いもなく料理に使用する陽キャの神と炎の神に夏樹は震えた。
(――改めて、この神やべぇ! ていうか、なっちゃんもこれ食べる流れなんだけど。どうしよう、ノリで返事なんかしなければよかった!)
――夏樹にとって最大の試練が近づいていた。