作品タイトル不明
6「やべーのにはやべーのが憑いているんじゃね?」②
「便宜上わかりやすく神と言っているだけだ。海そのものである彼女の方が、我々よりも格上だ」
「そ、そうだったんだ……よく考えたら、俺ってホラーさんのこと何も知らなかったな」
「お前な、ホラーさんって……いや、ホラーみたいなことは否定できないが」
夏樹が異世界で相棒として数年を共にした「聖剣さん」こと「蒼穹の星槍」は少女の姿を見せて意思疎通ができるので良き関係を築けていた。
それでも、夏樹は彼女の過去を深掘りしたことはない。
決して浅い関係性ではなかったが、踏み込むことをしなかったのは、夏樹の心の奥で「人間関係が怖い」という隠している本音があったからだろう。
だから、蒼穹の星槍がかつていくつもの世界を滅ぼしたことは知らなかった。
夏樹が知っていたことは、聖剣は仮の姿であり本来は槍であることくらいだっただろう。
「でもさ、大地さん」
「……大地さんって俺か。まあ、いいが」
「女性の過去を根掘り葉掘りするのって紳士としてどうなんだろう? 俺って、向島市一の紳士で通っているからさ」
「なるほど。確かに、由良夏樹の言う通りかもしれん。俺も紳士だ。女性の過去に容易く踏み込むのはいかがなものかと思う」
「だよねー」
「――しかしっ」
くわっ、と大地の神の目が見開き、ふんどしが風に靡いた。
「紳士だからこそ、女性に対して一歩踏み込むことも大切だと俺は思う」
「……大地さん」
「俺の知る海の神――始まりの海は孤独だった。いくつもの世界を渡り、彷徨い、我々と出会った。すでにシュノーケリングを始めてしまった地球の海の神が陽気な性格をしているおかげで友となり、姉と弟のような関係になった。一緒に生活もしていたが、時代の流れにより散り散りとなった」
「えっと、もしかして……ホラーさんは昔はホラーじゃなかったの?」
「そうだな……歴史に残るホラー映画があるだろう?」
「え? うん?」
「今の始まりの海が歴史に残るホラー映画レベルなら、かつての始まりの海はB級ホラーくらいだったな」
「違いが難しい! ていうか結局ホラーじゃん!」
「会話はできていた。今は多分、無理かもしれない」
「えー、じゃあどうすればいいの?」
「……そんなこともあろうかと思い持ってきた。これを使え」
大地の神はふんどしの中から、しっとりしたウィジャボードを取り出した。
「さあ、受け取れ」
「…………いや、あの、遠慮します」
「ふっ、謙虚だな。気にすることはない。実を言うと、このウィジャボードは価値があるんだぞ。一八〇〇年代後期の一品で、実際に数々の降霊を成功させた逸品だ」
「そうじゃなくて……」
「――っ、しまった、俺としたことが……日本人ならこっくりさんの方がよかったか?」
「そうじゃなくてっ!」
確かにウィジャボードが出された時は驚いた。
初めて見たので最初なんだかわからなかったりもした。
だが、そうじゃないのだ。
ウィジャボードだろうとコックリさんだろうと、まったく関係のない金の延べ棒だろうと、ふんどしの中から出てきた物はなんか嫌だ。
しかも、木製のウィジャボードがしっとり湿っているのだ。
その湿りの原因が、海水によるものなのか、それともまた別の要因なのか、真相を知るまで容易に受け取ることなどできないのだ。