作品タイトル不明
47「実はワクワクじゃね?」①
「……月曜日が来てしまった」
ベッドから起き上がった夏樹は、大きくため息をついてから着替えを始めた。
学生服に袖を通すも、今日は中学校に行かず、水無月家へ向かう予定になっている。
「異世界から帰還してみたら意外にファンタジーがあったっていうのはいいんだよ。でもさ、ルシファーから始まって天照大神って。ビッグネームすぎてお腹いっぱいっていうか、普通にファンタジーしていても簡単に出逢えないっしょ! もうこの出会いがファンタジーだよ!」
水無月家に赴く理由は、土地神みずちの代わりとして天照大神が降臨したからだ。
先日、実は神様だった月読先生から土地神として天照大神が来ると聞かされていたが、小粋な神ジョークだと思いたかった。本当に来たことを、水無月都から知らされて、絶句したのは言うまでもない。
「異世界から戻ってきて今日で八日目なんだけどな。濃いなぁ」
驚きに溢れる日々ではあるが、嫌いではない。
退屈することなんてないし、友人が、家族が増えた。
仮に、異世界に召喚されなかったら、力を持って帰ってこなかったら、こんな日々はなかっただろう。
嫌な感情しかない異世界に、少しだけ感謝できそうだった。
「……それにしてもまさか一登も一緒に水無月家に行くことになるとは思わなかった」
水無月家に向かうのに最初は夏樹と銀子の予定だった。
当たり前だが、宇宙人であるジャックとナンシーの存在は隠したい。ジャックたちも、信頼できる人間に正体を伝えることは構わないようだが、限度はあるそうだ。水無月家の人たちが善人であっても一族の末端までが善人であるかどうかわからないのなら、警戒すべきだ。
小梅も仮にもルシファーという名の知れた天使だ。霊能力者の一族とはいえ、小梅の存在を知ったら混乱するだろうと考え、お留守番をお願いしたのだが、それはもう駄々を捏ねられてしまった。
最終的に「天照大神がいるんじゃからルシファーがいても驚かんじゃろう! そもそも名乗らなきゃええんじゃ!」と小梅が譲らないので、「それもそっか」となってしまったのは仕方がないことだ。
夏樹としても、小梅だけを家に置いていくのはどうかと思っていたので、半分くらい「もうなるようになれ」と思っている。
もちろん、こちらから率先して小梅の正体を言うことはしない。力を限界まで抑えてもらって、霊能力者のひとりとして扱うつもりだ。
そして、一番の問題だったのは一登だ。
ミカエルの息子アルフォンスが由良家からの帰路で何者かに襲われた。そんなアルフォンスを救ったのが一登だった。
巻き込まれる形で霊能力、神、魔族、おまけとばかりに宇宙人の存在を知ってしまった一登は、きちんとこの非日常を受け入れていくことを覚悟していた。
だが、根っこは中学生だ。天照大神が降臨していると知ったのなら、一目見たいと思うことは自然なことだった。
恐る恐る都に一登に関して尋ねてみると、「関係者なら問題ないです」とあっさり返事があったので、一緒に水無月家に向かうことになっている。
なぜ水無月家が一登を良しとしたのか不明だが、考えても仕方がないのでお言葉に甘えることにした。
水無月家は迎えを寄越すと申し出てくれたが、銀子の車で向かうことにしていたので、お礼を言ってやんわりと断った。
「はてさて。どんなことになるのやら」
夏樹は少しだけわくわくしている。
天照大神といえば、日本で知らぬ者はいないだろう。
そんな神が、どのような姿をしているのか、どのような声で話をするのか、気にならないはずがない。
なんだかんだと言って、地球のファンタジーを楽しんでいる自覚のある夏樹は、緩む口元を引き締めるのだった。