作品タイトル不明
46「またビッグネームじゃね?」
夏樹たちとよっちゃんはすっかり仲良くなった。
まだ時間があるからと近くのスーパーでカップアイスを買ってベンチに座って食べる。
夏樹はバニラ、一登はチョコ、ジャックはラムレーズン、よっちゃんは抹茶だった。
少し肌寒い風が吹くが、湯上がりの熱った肌に心地よい。
(馬鹿みたいな異世界に召喚された時は人生終わったと思ったけど、こうして地球に戻ってきてみんなとアイス食べられるって幸せだなぁ。二度とこんな日は戻ってこないと思っていたんだけど)
正直なことを言うと、地球に帰還できたからよかったが、もしできなかったら、向こうの世界を滅ぼすくらいするつもりだった。
魔族だろうと人間だろうと、すべて平等に殺して、滅ぼして、塵にしてやるくらいのことは考えていた。
とくに異世界の人間は、生きていても死んでいてもどうでもいいくらいに嫌悪していたので、帰還できないとわかったら容赦しなかっただろう。魔族に恨みはないが、他の感情もない。八つ当たりするにはちょうどいい相手だった。
「よっちゃんは、これからどうするの? よかったら、うちでご飯食べてく?」
「いえいえ。さすがにそこまで甘えられません。これから青森に帰らなければならないので、またこちらの街に遊びにきたときにぜひ」
「約束だよ」
「ええ、もちろんです。夏樹くんたちは、私の大切な友人ですから」
夏樹たちはよっちゃんと連絡先を交換した。
少しずつ空が暗くなってきたので、よっちゃんは再会の約束をすると立ち上がる。
「夏樹くん、一登くん、ジャックくん。またお会いしましょう。……余計なお世話かもしれませんが、厳しい困難が待っていても君たちなら乗り越えられると信じています。乗り越えた先に、きっと幸せがあるはずです」
「よっちゃん?」
「はははは。おじさんの戯言だと思ってください。大変な日々を送っていそうなので、ちょっと激励したくなってしまいました」
よっちゃんは夏樹たちと握手を交わすと、手を振り背中を向けた。
「それでは、また!」
「じゃーねー!」
「よっちゃんどの、またの再会を!」
「またねー!」
名残惜しいが別れの時間が訪れ、夏樹たちも帰路についた。
途中で、小梅と銀子と母、そしてナンシーのためにビールとお菓子を買うことを忘れない。お土産というが、なにを買えばいいのかわからないのでわかりやすいものにした。
ナンシーはともかく、飲兵衛の三人は喜んでくれるだろう。
「…………」
夕食を一緒にするために、由良家に向かう一登がなにかを考えるように腕を組んでいた。
「どうしたの?」
なにかあったのか心配で尋ねてみると、
「あのね、よっちゃんってどこかで見たことあった気がするんだよね」
どうやらよっちゃんについて考えていたようだ。
「あ、実は俺も俺も。なーんかどこかで見たことがあるんだけど、思い出せないんだよね。俳優さんかなって思ったけど、青森に住んでいるならちょっと違うかもしれないし。お父さんがこの街に住んでるなら、気づかないところですれ違っていたのかなって」
「そうかもしれないよね。でも、うーん、なんか違う気がするんだよね」
夏樹と一登は唸ってみるが、結局、よっちゃんが何者なのかわからなかった。
しかし、悪い気分ではない。
よっちゃんはいい人だ。それだけでいい。
「あ」
不意に夏樹のスマホが震えた。
「どうしたの、夏樹くん?」
「えーっと、なになに? 都さんからだ」
「都さんって、水無月家という霊能力者のお家の?」
「そうそう。その水無月さん家。――げ」
嫌そうな声を出した夏樹が、スマホの画面を一登とジャックに見せる。
そこには、
『こんばんは。昨日はお姉ちゃんと楽しく遊園地デートしてきました。お土産買ってきたので渡しますね。……ところで、今日、新しい土地神様がいらしてくださったのですが、なんと天照大神様でした! 水無月家大パニックです! 申し訳ないんですけど、明日、放課後、水無月家にきてください! お願いします!』
同級生の水無月都からのメッセージは、混乱しているのがわかった。
「……天照大神って、もしかして、あの」
「あのもなにも、太陽司っちゃってるお方じゃね!?」
「なんでそんなビッグネームが向島市にくるの!?」
「はっはっはっ! すでに月読様も、サタンも、ルシフェルも来ているんだ。俺は驚かねえ――なんてわけあるか! くおぉら、神々! 何度も言うけど、上からくんな! 順序よく下から来い!」
やっぱりビッグネームから現れた日本の神に届くように、夏樹はうっすらと暗くなった向島市の空に叫ぶのだった。