作品タイトル不明
77「杏のけじめじゃね?」③
「――杏ちゃん、ご飯食べていく?」
ひとしきり抱きしめ合い和解した春子と杏。
春子は優しい声で、杏を夕食に誘った。
「もちろん、一登くんとそちらのマモンさんよね。以前、キャベツやお米をくださって。お礼もきちんと言えなかったので、ぜひお夕食を」
「ありがとうございます!」
「いえいえ、そんなまもんまもん。しかし、このマモン、ご婦人の誘いをお断りするほど無粋なまもんまもんではありませんので、ご馳走になりまもんまもん!」
一登とマモンは夕食を一緒のすることになったが、杏は返事をしない。
おや、と夏樹たちが不思議に思う。
杏を伺うと、覚悟を決めた顔をしていた。
「春子さん! まだ杏はけじめをつけていないから!」
「あ、杏ちゃん?」
据わった目をしている杏に春子が戸惑った声を出した。
同時に、杏はスクールバッグから「ドス」を取り出した。
「――あ、やべ」
ドスというよりも、匕首といった方が覚えがあるかもしれない。
鍔のない短刀だ。
「――けじめ、つけさせていただきます!」
その場に正座した杏は手を地面の上に起き、ドスを振り上げる。
「いやいやいやいやいやいや!」
「待って待って待って待って!」
「まもんまもんまもんまもん!」
幸にして、夏樹、一登、マモンが杏の腕を振り下ろすよりもはやく、短刀を取り上げることに成功した。
「……あ、危なかった。この子、行動力すごくない!?」
「どこかの誰かさんにそっくりだよ!」
「まもんまもん!」
目を丸くしている春子に負けないくらいに、夏樹たちもびっくりした。
それ以上に、夏樹の心臓はどくんどくんと脈打っている。
春子の腕が蛇が獲物を捉えるように夏樹の顔を掴んだ。
「……杏ちゃん、どうしてこんなことを?」
「お、お兄ちゃんがけじめのつけかたって」
「ミシミシ言ってる! 出ちゃう! 出ちゃいけないものがでちゃう! 違うんです、お母さん! 言い訳させてください! 僕は決して杏さんに何かさせたかったわけじゃないんです! 元気付けるために冗談を言ったつもりです、すみません、やっちゃだめだよ、と言うの忘れていました! でも聞いてください! 本当にやるとおもわなかったんです! ヤスが、二年前に事務所潰したときにお母さんに農家さんを紹介してもらって一般人に戻ったヤスが教えてくれたんです! 出ちゃう! でーちゃーう! やめ、ほ、やめ、ごめんな」
春子に顔を掴まれて持ち上げられていた夏樹の身体が宙を舞った。
しばらくして、どぼんっ、と水音がした。
「――あ」
「――あ」
「――ま」
夏樹が春子によって川に投げられたのだと遅れて理解した。
「もう、杏ちゃんったら、夏樹のお馬鹿な言葉に騙されちゃダメだぞ。めっ」
「――ぴぃ」