作品タイトル不明
78「晩御飯の時間じゃね?」
「あのね、本当に悪気はなかったんです。杏さんがけじめをつけたいと言ったから場を和ますジョークだったんです。一登も杏さんも笑っていたじゃん! まさか実際にやろうなんて思わないでしょう? 俺が九割悪いけど、一割はねぇ。きっと反省していないって思われるかもしれないけど、指だよ? 指? いやさ、俺もやれと言われたらやれるけど、それはヒールで生えてくるからでありまして。杏さんもそうかもしれないけど、お母さんを誤魔化すことはできないんですから。いや、本当にすみません。俺が悪いんです。ごめんなさい」
マモンと一登によって川から引き上げられた夏樹は、自宅まで引きずられながら帰宅した。
引きずられたせいかズボンが脱げてしまったが、夏樹は気づくこともできず玄関の鉢植えに言い訳をしていた。
「……どうしよう」
一登はとりあえず玄関に上がったものの、動かない夏樹を放っていいのかどうか悩む。
「というか、夏樹くん以上に茶の間がどうしようってことになっているんだけど」
それもそのはず。
杏は異世界で小梅と銀子と話をしているので問題ない。
むしろ、「よう来たのう!」「お久しぶりっす!」と歓迎されていた。
――問題はマモンだ。
最初に、小梅が指を差した。
「なーんでまもんまもんがおるんじゃ! おどれが俺様に何をしようとしたのか忘れたんか!」
かつてマモンは魔界でも屈指の実力者であるため、魔王の娘である小梅の婚約者だった。
マモンは小梅を利用してサタンを魔王の座から引き摺り下ろし、かつてから慕っていた上司であるサマエルを魔王にすべく暗躍していたのだ。
しかし、夏樹と戦い、敗北し、その計画は潰れてしまった。
以後、青森で隠居生活をしているサマエルのもとでのんびり暮らしている。ただし、青森から出るのは禁止だ。
そんな因縁がある小梅がマモンに対して良い顔をするわけがなかった。
「――まもんまもん。しかし、俺のおかげでルシファー・小梅は由良夏樹と関係が進んだと聞いているのでまもんまもん?」
「――ぽっ。その説は、おせわになりまもんまもん」
一度は噛み付いた小梅だったが、すぐに立場を変えた。
「小梅さんよわっ! そして思い出した抜け駆けの過去っす!」
「ちょ、それはもうええじゃろう!」
「よくないっす!」
銀子と一緒に騒いでいると、次にマモンを睨んだのはサタンだった。
「……お前な、青森行きを言った俺の前によく顔を出せるな」
サタンはマモンに刑を課した魔王である。
「ふっ、逆にすごいでまもんまもん?」
「自分で言っちゃうんだ? 本当にすごいよ!」
ドヤ顔をするマモンに、サタンも呆れ顔だ。
「俺は誇り高きまもんまもんな魔族であるが気高きまもんまもんな魔族でもある。さまたん以外に従うつもりはないでまもんまもん!」
「……その割には、サマエルをさまたん呼びなんだよなぁ」
「尊敬ゆえでまもんまもん!」
「本当かなぁ。いや、それはいいんだよ。それよりも、なんでお前が春子さんに夕食誘われてほいほいついてきてんだよ!」
「まもんまもん!」
「俺はその魔法の言葉を理解できないんだよっ!」
一登は「はぁ」と大きくため息をつくと、もう一度言った。
「……どうしよう」