作品タイトル不明
70「ギャラクシー流VSまもんまもん流じゃね?」③
夏樹には何が起きたのかわからなかった。
何も見えなかった。
身体中に衝撃が走り、宙を舞ったかと思えば、受け身を取ることができず頭から落ちた。
――ぐしゃ。
「――夏樹くん!?」
「――お兄ちゃん!?」
戦いを見守っていた一登と杏が悲鳴を上げる。
ジェイソンが葉巻の紫煙を潜らせながら目を細めた。
「勝負ありか。いや……さすがだ、ボーイ。まだ立つのか」
頭から血を流しながら、夏樹は立ち上がっていた。
今までよりももっと獰猛な顔をして、楽しいと言わんばかりの笑顔だ。
「――まさか、スーパーまもんまもんタイムの中でまもんまもんされながら立ち上がるとは……さまたん様が道を誤った時にお止めするために作り出したまもんまもんな秘技を、よくぞ耐えたでまもんまもん!」
「ひひひ、ひはははははははははははははははははっ!」
夏樹が笑う。
楽しそうに。
嬉しそうに。
高揚を隠せず、笑い続ける。
「あはははははははははは、いひひひひひひひひひひひひひっ」
「――あ、これ、やばい」
一登が無意識に口にしていた。
夏樹が今までにないくらい「ハイ」になっているのだとわかった。
幼馴染みの一登だからこそ、よく知っているのだ。
由良夏樹は「キレる」と静かになる。夜の海のように、恐ろしいほど静寂になるのだ。
だが、「ハイ」になると、嵐のように感情を昂らせてしまう。
アマイモンと戦った時でもここまでにはならなかった。
「きひひひひひひひひひひひっ。―――あーあ、もうやーめた!」
ひとしきり笑った夏樹が笑顔を消さず、頭部から流れてきた血を舐めた。
「最高だよ、漆黒騎士さまたーん! わかるか! 俺の、今の高揚感! 胸の高鳴り! 初恋のような高ぶりだ!」
声がビリビリと響く。
意識していないだろうが、声に魔力がこれでもかと乗っている。
「わかった、わかった、わかった! もういいや。川の下だからとか、なんか言い訳するのも面倒くさくなってきた」
「まもん……魔力が」
漆黒騎士さまたーんが目出し帽の中で動揺している。
対して、夏樹は楽しそうだ。
まるでクリスマスプレゼントを開ける子供のようだった。
「いくぜ、あんたがスーパーまもんまもんタイムなら、今から始まるのはスーパーギャラクシー河童勇者タイムだ!」
どんっ、と夏樹が地面を蹴った。
立っていた場所がヒビが入り、陥没する。
「――ま」
瞬く間に肉薄した夏樹が漆黒騎士さまたーんの襟首を掴み、全力で頭突きを放つ。
杏が耳を塞いでしまうほどの音が地下に反響し、夏樹と漆黒騎士さまたーんの額が割れて鮮血が吹き出した。
「ま゛」
「まだまだいくぜぇ!」
頭から血を吹き出そうと、まるで気にしない夏樹が漆黒騎士さまたーんの頭を掴んで壁に叩きつける。
一度、二度、三度、四度、五度。
壁が砕けるまで繰り返した。
「ひひひっ、壁より硬いなぁ!」
「――まもん!」
漆黒騎士さまたーんが両目から魔力の光線を放つ。
夏樹の耳を掠って、半分ちぎれ飛んだ。
だが、やはり気にしない。
「ひひっ、ひひひ!」
夏樹の腕が漆黒騎士さまたーんの腕を掴み、投げ飛ばす。
反対側の壁に激突した騎士に追撃する。
高笑いしながら、楽しそうだ。
まるで夏休みの初日を全力で楽しむわんぱく少年だった。
「そろそろ飽きてきたぜ!」
「まもんまもん、それはこちらのセリフでまもん!」
「んじゃ、勝負だぁああああああああああああああああああ!」
「まもんまもぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!」
夏樹と漆黒騎士さまたーんが全力で最後の一撃を放った。
「死にさらせぇええええええええええええ! ギャラクシー河童勇者ウェルカムハイウェイジャスティスデンジャラスパーンチ!」
「まもんまもん! ――まもんまもん流ハイパーアトミックエンジェルさまたんパーンチ!」
夏樹の蹴りが、漆黒騎士さまたーんの拳が――それぞれの股間に全力で激突した。