作品タイトル不明
71「決着じゃね?」
夏樹と漆黒騎士さまたーんは両者揃って白目を剥いて口から泡を吹いてその場に崩れ落ちた。
「――夏樹くぅんんんんんんんんんんんんんんんんんんんん!?」
「お兄ちゃん!? 漆黒騎士さまたーんさん!?」
見ているだけで股間が痛くなるような光景に一登が内股になりながら叫ぶ。
対して、杏は夏樹たちの名を呼びながら、走った。
股間を押さえて前のめりに倒れているふたりの腰に回復魔法を当てて一登を呼んだ。
「一登! はやくこっちきて手伝って!」
「う、うん! そうだった!」
「このままじゃお兄ちゃんと漆黒騎士さまたーんさんが女の子になっちゃう!」
「なっちゃうかな!? いや、なっちゃうかもしれないけど!」
「そうしたら、安部円さんの一人勝ちだよ!?」
「問題はそこかなぁ!? そこも問題かもしれないけれどぉ!」
「銀子さんは喜ぶかもしれないけど!」
「うん。そうだねー」
覚えておいてよかった、と一登も杏と一緒に夏樹と漆黒騎士さまたーんに回復魔法をかける。
普段から股間に攻撃する悪癖がある夏樹が、ダブル股間ノックアウトになるとはいくら付き合いが長い一登でも予想できなかった。
今まで、夏樹に股間を蹴られてきた者たちが復讐しようと襲いかかってきたことは何度もある。その都度、夏樹は股間を狙われた。
股間を狙う蹴りに対して、垂直に拳を放つ「金的返し」によって相手の脛に大ダメージを与えて撃退してきたのだ。
その夏樹が股間を押さえて泡を吹いている。
――あまりにもの貴重映像に動画を撮りたくなってしまう一登だった。
衝動を必死に堪えて、回復魔法をかけながら夏樹と漆黒騎士さまたーんの腰をとんとん叩き続ける。
――三十分ほどして。
「ふっ、やるじゃないか漆黒騎士さまたーん」
「まもんまもん。それはこちらのまもんまもん。由良夏樹、お前は強い。今ならば、暗黒騎士さーまんの称号を与えることを考えたい」
「あ、それはいいです」
「まもーん」
しょぼーん、みたいな感じで肩を落とす漆黒騎士さまたーん。
夏樹はケラケラと笑っているが、まだ万全の状態ではないのだろう。内股だ。
「えっと、ダブル股間ノックアウトをなかったことにしたいのはわかるけど、決着は……引き分けってことでいいのかな?」
「はっはっはっは! 俺の勝ちさ。俺の方が最初に立ったし」
「まっまっまっま! この漆黒騎士さまたーんの勝ちでまもんまもん! 先に声出せたのはこちらでまもんまもん!」
「いやいや、立った方が勝ちでしょう」
「行動できた方が勝ちでまもんまもん!」
両者内股のままどちらが勝ったか負けたかで言い合いを始めてしまう。
さすがに第二ラウンドが始まる雰囲気ではないのは、良いことだが、勝敗がはっきりしないと遺恨が残りそうな気がして一登は焦る。
なんとかしようと言葉を考えるが、出てこない。
そんな時だった。
「――よかったぜ、ボーイ」
ジェイソンが手が拍手をした。
「ジェイソンさん?」
「ナイスファイトだった、ボーイ。いや、もうボーイなんて言えないな。――あえてこう呼ぼう。なっちゃん、と」
「――っ、俺のことをそんな親しげに呼んでくれるんですか!?」
「俺となっちゃんの仲だろう?」
「――とぅくん!」
夏樹が胸を抑える。
ジェイソンに名を呼ばれたことが相当嬉しかったようだ。
「さて、そろそろ種明かしと行こうか。漆黒騎士さまたーん、正体を明かす時がきたぜ」
「――っ」
「――もうネタバレなんだね!」
漆黒騎士さまたーんの正体が明かされる展開に、夏樹は息を飲み、杏がわくわくしたように展開を待った。
「――いや、マモンさんでしょう。むしろここからマモンさんじゃないルートあったら、俺、なんでもするよ?」
どうして夏樹と杏は漆黒騎士さまたーんの正体がわからないのか不思議でならない一登だった。