軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

44「お風呂って最高じゃね?」

向島市の商店街のはずれにある銭湯は、初老のご夫婦が運営する市民の憩いの場だった。

ご本人たちは趣味でやっていると公言しているのだが、ほぼ毎日開いている。料金も最近は値上がったが、大人は四五〇円、子供は一八〇円というお手頃価格でありながら、サウナがあるのが嬉しい。

一般的な銭湯に比べて若い人はあまりこないが、地元民に愛される銭湯なのでそれなりに客もいる。

夏樹も幼い頃から母や一登、青山久志などと一緒に来ているので知った顔だ。

「こんにちはー」

「失礼する」

「どうもです」

夏樹、ジャック、一登は合流して午後を男三人で遊ぶと、締めとばかりに銭湯にやってきた。

暖簾をくぐると、番台にはおばちゃんが座っていた。

小銭を置いて挨拶すると、おばちゃんは微笑んでくれた。

「あら、なっちゃん、一登ちゃん。よくきたね。あら、商店街で噂のイケメンさんじゃない」

「お風呂入りに来ました」

「サウナもね」

「こんにちは、ご婦人。私は、ジャック・ランドック・ジャスパー・ウィリアムソン・チェインバー・花巻です。由良家に滞在しているので、通わせていただきます」

知った顔なので気軽に挨拶する夏樹に対し、ジャックは胸に手を当てて丁寧にお辞儀をした。

礼儀正しいジャックに少し驚いた顔をしたものの、おばちゃんは目尻の皺を深めた。

「ジャック・ランドック・ジャスパー・ウィリアムソン・チェインバー・花巻ちゃんね。はいはい、おばちゃん覚えたよ。礼儀正しいいい子だね。なっちゃん、一登ちゃん、三人で好きな牛乳飲みな!」

「やったー!」

「わーい!」

「感謝します、ご婦人」

「いいっていって。暖かくなってきたけど、まだ夜は冷えるからね。ちゃんとあったまっていきなさいね」

笑顔のおばちゃんにお礼を言って、男湯に向かう。脱衣所に服を脱ぎ、衣類をロッカーにしまう。鍵は輪になったゴムに通されていて、手首に装備した。

タオルを腰に巻くと、ちらり、とジャックを見る。

数人のお客さんがいる中で全裸になる躊躇いがあると思ったが、彼は特に問題ないようで服を脱いでいた。

(ま、よくよく考えればグレイの姿が常に全裸みたいな感じだもんね)

現在は美形な欧州の青年なので、他のお客さんもつい視線をジャックに向けてしまっている。

「ジャックさん、なかなかな物をお持ちですね」

「はははは。夏樹こそ、立派なものをお持ちだ。ふふふ。懐かしい。学生時代、寮の風呂場で友人とこんなやり取りをしたよ」

懐かしむように微笑むジャックだが、夏樹にはグレイバージョンだったのか、人間バージョンだったのか気になる。

あと、宇宙人の寮生活とかもとても気になった。

「夏樹くんもジャックくんも、お馬鹿なこと言ってないで早くお風呂入ろうよ」

一登もすっかりジャックと打ち解け、「ジャックさん」から「ジャックくん」へと呼び方が変わっていた。

ジャックも地球でふたりめの友人ができたと喜んでいる。

「ごめんごめん、つい――え?」

異世界では風呂に入る日課がなく、あっても水が汚い場合があったので、基本的に浄化魔法だ。

自宅の浴槽もいいが、銭湯のように大きなお風呂に足を伸ばせることや、気のいい友人と一緒にお風呂に入ることを楽しみにしていた夏樹はテンション高めだったのだが、苦笑する一登を見て目を丸くした。

「どうしたの?」

「あ、え、うん。一登くん……お股に大蛇飼ってるの? 前に見た時には俺と変わらなかったのに、成長期さんかな? 大蛇さん成長期なのかな?」

「ちょ、変なこと言わないでよ! クソ兄貴に比べたら誰だって大蛇だよ! ほら、いこう!」

「あ、うん」

異世界から帰還したら幼馴染みが大蛇を股間に飼っていたという動揺を隠せない夏樹に、ジャックが肩に手を置いた。

「安心するといい、夏樹。君も日本人の平均サイズを余裕で超えている。だが、大事なのはサイズではないのさ。持久力、そして相手への――愛だ」

「――深い! 深いよジャック! さすが婚約者がいるイケメンは違うな!」

「ははははは。やめてくれ、照れてしまう」

夏樹とジャックのやり取りを頭が痛そうに見ていた一登は、肩を組んで歌い出したふたりに背を向けて一足先に浴室に向かった。