作品タイトル不明
43「立ち直ってほしくね?」
「それで、春子ママ。男どもには聞かせたくなかったんじゃろう?」
「私も一応、公務員っすから。秘密は守るっすよ」
「私もなにかお力になれれば……なんでもおっしゃってください」
春子は、小梅たちの気遣いに「ありがとう」と言ってから大西さやかの両親から聞いたことを話し出した。
さやかは、かつて夏樹の家庭教師をしてくれたことがあり、家も同じ町内のためよく顔を合わせる。ご両親も春子と親しく、ときどき母親同士でランチを一緒にすることもあるそうだ。
春子は以前から、さやかの母から聞かされていたので知っていたが、どうやらさやかは三原優斗と付き合っていたようだ。
始まりは、夏樹の家庭教師が一ヶ月ほどであっさり終わってしまったことだった。
不思議に思っていた両親の前に、急に優斗を紹介されたと言う。
その後、優斗はときどきさやかと勉強するようになった。
ここまでは特に問題ない。
弟以上に可愛がっていた夏樹の家庭教師をあっさりやめ、他の少年を連れてきたことは驚いたが、将来教師を目指していたさやかを見守ることにした。
しかし、優斗が中学生に上がる頃、彼氏として紹介され、さやかの両親は困惑することとなる。だが、真剣に付き合っているのならいいだろう、と思ったようだ。
優斗も両親の前ではいい子だったようだが、さやかが大学進学と共にバイトをはじめ、その給料を優斗に「おこづかい」として渡していることを知ると注意した。だが、さやかは「付き合ってもらっているから」「優斗くんを私が支えないと」と言って聞かない。
しかし、優斗が関わらなければいつも通りの子だったので、はしかのようなものでいずれ目を覚ます。反対ばかりしてムキになって駆け落ちなどされても困ると考え見守っていたらしい。
「なんというか、悪い男に引っかかっちゃったっていうよくある話っすね」
「相手が夏樹の同級生っていうのがあれじゃが、男女の付き合いが必ずうまくいくばかりじゃないしのう」
「優斗くんも、親しい女の子がたくさんいたみたいなの。一登くんはしっかりした子だけど、優斗くんは昔から男の子よりも女の子と仲良くしていた子だったのよね。でもまさかさやかちゃんとお付き合いしていたなんて」
さやかは数日前に、急に吐き気を催してしまい、それをつわりと勘違いしてしまったようだ。
すると、体調が悪くなり、ネットで症状を見てみると妊娠初期と当てはまってしまったらしい。
ひとりで抱えて悩んでいたようだが、優斗とすることはしていたので、妊娠で間違いないと思い込んでしまったようだ。
「それがなんで夏樹くんの子になってしまうんでしょうねぇ」
「ガブリエルおばちゃんもびっくりじゃわ!」
「夏樹には言わないでね。実は、さやかちゃんは夏樹が好きだったみたいなの。恋というよりも好意だったんでしょうけど」
「ほえー。じゃったらなんで別の男と付き合ってるんじゃ?」
「それがご両親にもわからないみたいなのよねぇ」
銀子は優斗の魅了に関して夏樹から話を聞いていたので、さやかが優斗の魅了下にあったことを察した。
今までは自業自得の子しかいなかったので気にしていなかったが、さやかの場合はちゃんと被害者だった。
とはいえ、優斗の力は封印されている。父や院へ報告するつもりだが、果たして動いてくれるのか疑問だ。
すでに魅了が解けているのなら、対応は難しい。カウンセリングを受けるなり、悪い男に引っかかったと前に進んでくれることが一番だが、関係ない夏樹に「子供ができた」と言いにきたあたりを考えると、不安が残る。
(そういえば、そういう被害者用の専門カウンセラーがいましたね。春子さんに霊的要素を隠して紹介したほうがいいでしょうねぇ)
銀子の知るカウンセラーは、霊能関係者を専門に診る女性だ。
銀子もはじめて、霊能犯罪者を斬り殺したときに義務でカウンセリングを受けたことがある。その後も、三ヶ月に一回のペースでカウンセリングをしている。
優斗だけが力を使って悪さをするわけではない。他にも被害者が男性の場合もあるし、加害者が女性の場合もある。
嫌な記憶や感情を消すことはできないが、過ぎ去った過去の出来事として心の中に記録として置いておくくらいに感情整理を手伝ってくれる有能な女性だ。
(神経がずぶとい方ならよかったんっすけど、普通の子だからっすかね。個人的にはちょっと危ういように見えましたけど、別に夏樹くんが悪いわけじゃないっすからね。放置すると、一登くんがかわいそうっすから、ちょっとおせっかいするっす)
後日、銀子の対応のおかげで、カウンセリングを受けたさやかは精神の安定を取り戻すのだった。