作品タイトル不明
61「死の神は何を思うか、じゃね?」②
死の神が初めて殺せなかった人間は幼い少女だった。
名を、真白といった。
詳しいことはわからなかったが、難しい手術と大金が必要らしい。
死を間近にする人間は怯えていた。
死の神は、人間を苦しめたいわけではない。
安らかに、穏やかでいてほしい。
苦しみから解き放つには、「死」を与えることだけ。
少なくとも、死の神にとって、手段はそれだけだった。
だが、真白は違う。
幼いながら、生への渇望に燃えていた。
生きてやる、と諦めていなかった。
真白に生まれて初めて興味を抱き、離れた場所から観察していた。
しかし、人間的に幼い少女を離れた場所から凝視しているのはよくなかったようだ。
看護師と警備員に追われて逃げたのは、新鮮な体験だった。
後日、見舞いとして少女のもとを訪れると、彼女は快く死の神を迎えてくれて、友達と呼んでくれた。
その時だろうか、彼女に何かをしてあげたいと思ったのは。
「ねえねえ、お兄ちゃん。最近、来てくれなかったね?」
「少し面倒なことがあったんだ」
「お仕事?」
「そんなところだ」
「お兄ちゃん、お仕事しているの!? フラフラしているからニートかと思った!」
「……どこでそんな言葉を覚えるのか興味深い」
「女の子には秘密が多いんだよ!」
「そうか。覚えておこう」
加座間吉座のような人間でも、体裁を保つために役に立つものだと感心した。
死の神は人間社会に囚われることはしないのだが、フラフラしている大人と思われるのは少し、本当に少しだけ嫌だ。
「そういえば、今日は母親はいないのか?」
病室には、いつも母親か父親がいるはずだ。
母親の方がいる確率が高い。
真白の母は都合よく、死の神を病院で知り合った人と思っているようで、特に話をすることを問題視していない。
実際、病院で知り合ったことは間違いはない。
「うん。なんか忙しいみたいなんだ」
「そうか」
「うん。……私の手術にお金がかかるみたいだから、大変みたい」
「そうか」
こういう時に気が利いたことが言えないことが悔やまれる。
人間と関わってこなかったせいだろう。
「宝くじとかあたらないかなー」
「ならばまず宝くじを買えばいい」
「そのお金がないし、私子供だから買えないよ」
「ふむ。ならば、俺が買ってこよう」
「待って、待って待って、買ったって当たらないよ? そんな簡単に当たったらみんな買っちゃうからね?」
「……そうか。夢がないことだ」
「夢があるから買うんだけどね」
「そんなものか」
「そんなものだよ」
「真白と話をすると勉強になる」
「私はお兄ちゃんと話をすると心配になるよ?」
「安心しろ。問題ない」
「問題多ありだと思うんだけどなぁ」
その後、死の神は真白と他愛ない話をした。
と言っても、真白が一方的に死の神に話をし続けただけだ。
それでも、真白は満足したようで笑っていた。
思えば、いつも笑っている子だと思う。
「そろそろ帰ることにする」
「えー、もう?」
「面会時間がもう終わってしまう。もう少し時間が進めば夕食の時間だろう。子供はよく食べよく眠るといい」
「はーい。ねえ、お兄ちゃん」
「なんだ?」
「また来てくれる?」
「また来る」
「本当?」
「ああ。私はいつでも真白のことを気にかけている」
「そ、そう? じゃあ、いいよ! 今日は帰っても! お兄ちゃんもご飯食べて、ちゃんと暖かくして眠るんだよ!」
「わかっている」
椅子から立ち上がり、何気なく少女の髪を撫でた。
「えへへ」
「またくる。何か困ったことがあれば呼べ。ただ、呼べばいい。いいな?」
「うん!」
少女はあえて、連絡先を知らないとは言わなかった。
彼女なりに何かしら死の神に関して察していることがあるのかもしれない。
「では、またな」
「うん。またねー!」
手を大きく振る、少女に頷き、死の神は病室を後にした。
「――やはり金か。金が必要だ。人間には、金がなければいけない」
加座間吉座からの報酬はだいぶもらったが、足りない。
貯めているくせに、支払いが渋いのは気に入らないが、唯一の報酬を払う人間なので無碍にできない。
「仕方がない。交渉をするか」
その交渉が吉座にとって交渉になるのかは不明だが、死の神は決めた。
「私は真白を救う。救うことで、私は――――」
呟きは、途中から風にかき消された。