作品タイトル不明
52「月読先生の心労がやばくね?」
「なぜ、あの子たちは簡単に死の神と遭遇しているんですかぁああああああああああああああああああああああああああああ!」
夏樹との通話を切った月読命は、職員室の奥の部屋で叫んでいた。
「まあまあ、月読先生! コーヒーを、コーヒーをどうぞ!」
「砂糖もあるぞ! 疲れた時は糖分だ!」
荒ぶる月読を、同僚の権藤と萌乃萌葱が頑張って落ち着かせようとする。
普段、冷静な月読だからこそ、やんちゃな生徒由良夏樹がいろいろやらかしたのだと察した。
「……はぁ、はぁっ、すみません。つい、感情を制御できず。コーヒー、いただきますね」
礼を言って権藤からコーヒーを受け取ると、萌葱から砂糖を受け取ってジャバジャバと入れた。
普段はブラックでコーヒーを飲む月読らしからぬ行動に、ふたりが「うわぁ」と変な声を出す。
月読にはふたりの声が届いていないようで、コーヒーを飲んだと思ったらジャリジャリと砂糖を噛み始める音が響く。
「あ、あの、月読先生、由良がまた何かやったようですが」
「死の神とか聞こえていたが、奴が表立って行動したのか?」
「……なんといいますか、夏樹くんが悪いわけではないのですが、ないのですが!」
下校中をはぐれ霊能力者に襲われたのは仕方がない。
不可抗力だ。
むしろ、無事でよかったと思う。
七森千手たちが、加座間家と接触したのも仕方がない。
本人たちも不本意な形であっただろう。
夏樹が襲撃者の雇い主に仕返しをしようとするのもわかる。
わかるのだが、まさかその過程でビルを一棟破壊して、死の神と邂逅するとは思わなかった。
「彼はきっと破壊神ですね。間違いありません」
「月読先生……さすがにそれは……いえ、まあ、由良ですし、気持ちはわかりますけど」
「……フォローしようとした権藤先生が最後までフォローできなかった、だと!? 由良夏樹は何をしでかしているんだ!?」
「ははは、萌葱先生。由良は教師からの評判はいいんですよ。やんちゃではありますが、弱いものいじめはしませんし、どちらかというといじめなどがあったら加害者が向島市からいなくなるくらいの……」
「やっぱりフォローできなくて黙ってしまったのですが!?」
権藤も渋い顔をしてしまった。
由良夏樹に救われた生徒は多い。
学校の外でも評判は決して悪くない。
ボランティア活動にも積極的に参加している。
ただ、夏樹に追い込まれた人間も多い。
被害者でさえ、「えぇ、そこまでするのぉ?」と動揺を隠せない加害者への追い込みがエグいのだ。
有名なのは、詐欺被害に遭いかけた老人を助けたことだ。そこまでなら、中学生が犯罪を見抜きました、で終わるのだが、どういうわけか詐欺組織を見つけ出し、ひとりで全員を捕まえてしまったことだ。
夏樹が厳重注意だけで済んだのは、彼らが他県で追われている犯罪者であったことや、相手が二十人もいたことが理由だった。
「やりすぎ」ではあるが「やりすぎ」とは言えなかったのだ。
唯一激昂したのが、夏樹の母である春子だった。さすがに母の怒りは答えたのか、一週間は静かだった。
「ふふふふ、どうせ夏樹くんは死の神と偶然的に再会し、なんやかんやあってバトルになるんですよ! 相手は死の神ですよ! 恐怖とかないですか!? 私の長い時間をかけて練った計画が全部ダメになってしまう! もう現時点で半壊なのに!」
砂糖たっぷりのコーヒーを飲んでも月読の憂いは晴れたなかった。