作品タイトル不明
51「死の神って死神と何が違うのかわからなくね?」
「――え? い」
「もし、嫌です、などと言ったら君の学校での生活態度を誇張してお母様にご報告します」
「月読先生に忠誠を、誓います!」
夏樹は神に逆らうような愚か者ではない。
死の神を殺したいのはやまやまだが、月読命がわざわざ連絡をしてまで止めるというのなら、それ相応の理由があるのだろう。
――もしくは、夏樹では勝てないと思っているのかもしれない。
「お待たせ、死の神。月読先生は吉座くんいらないって! 持って帰っていいよー!」
「……そうか。ならば連れて来い」
「てめえが取りに来い」
「……由良くん、あなたが渡しに行きなさい」
「へい!」
通話を切るのを忘れていた夏樹が従順に従う。
「へへへ、どーぞ」
吉座の足を掴んで引きずると、持ち上げて死の神へ渡す。
「……ああ」
死の神は特に何も言わず、吉座の足を掴んで受け取った。
「うっす。あ、へくしゅっ! あ、ごめんなさい。なっちゃんったらうっかりさん。くしゃみした勢いで吉座くんの顔に蹴り入れちゃった! 端正なお顔が潰れちゃってない? いやね、もう!」
「……気にするな。特別端正ではない」
「……辛口じゃん」
吉座を無条件で引き渡すことが不満でならない夏樹がわざとらしいくしゃみと一緒に吉座の顔に蹴りを入れても、死の神は特に気にした様子がない。
「聞こえているか、月読命」
「――ええ、聞こえていますよ」
死の神は、夏樹のスマホに向かって声をかけた。
「由良夏樹がどのような挑発をしようと殺すつもりはない。安心しろ」
「それは、どうも」
「加座間吉座に関してもお前が気にする範疇外での悪さはしていない。先ほども言ったが、私と加座間吉座は利害の一致で協力関係にあるが仲間でも、友でもない。死なれたら都合が悪いので回収に来ただけだ。私も特別お前たちが困るようなことをするつもりはない」
「その言葉をどこまで信じていいやら悩みますね」
月読の警戒はスマホ越しにもわかる。
「信頼する必要はない。これは親切な忠告だ。死にたくなければ私に関わるな。それだけだ。私にも私のすることがある。邪魔をするのならば、殺す。死にたければ、かかってくるといい。死の神が全力を持って相手をしよう」
「……その時が来ないことを祈りましょう」
「そうしておけ。――では、私は戻る。さらばだ」
死の神は吉座の足を掴んだまま、引きずってゆっくり歩いていく。
その背中は無防備だが、強者ゆえの余裕と見れた。
「なあ、あんたさ!」
「――なんだ?」
夏樹が声をかけると、死の神は足を止めるが振り返らなかった。
「あんたが加座間吉座と組むことで得る利ってなに?」
純粋な問いかけに、死の神は迷うことなく言った。
「――金だ」
「あら、やだ俗っぽい」
つい本音が出てしまった夏樹に、千手たちが顔を青くする。
だが、死の神は気にした様子はない。
「そうだな。そうかもしれない。しかし、金を欲する者がいることは決して悪いことではない。私は――いや、なんでもない。少し話しすぎた。では、さらばだ、由良夏樹」
「サラダバー」
夏樹は軽く手を上げて返事をした。
刹那、死の神の姿は消えた。
まだこのあたりに残っていた神気の息苦しさも一緒に。
「死の神が金を必要とするのねぇ。何に金を使いたいのかまったく見当がつかないや」
もちろん、夏樹の疑問が晴れることはなかった。