作品タイトル不明
48「敵はちゃんと絞めなくちゃいけなくね?」①
夏樹は足から伝わる何かが潰れた感触に顔を顰めた。
「ぎゅにゅっ、て感じがきもい」
「……夏樹くん、そんな。自分から蹴っておいてそれはひどいよ」
内股気味の一登が、股間を押さえて地面に蹲って「かひゅーっ、かひゅーっ」と危うい呼吸を繰り返している吉座に同情的な目を向けていた。
「ねえ、杏ちゃん」
「うん?」
「あそこ蹴られると、あんなんなるの?」
「わかんないよ!? 杏、女の子だもん!」
「そ、そうだよね。でも……痛そうとかそういうレベルの苦しみ方じゃないんだけど」
「そ、そうだよね。さすがお兄ちゃん。同じ男の子なのに、躊躇いがないのが流石すぎるよ」
「感心しちゃ駄目でしょう!」
女性ふたりは、男の子の股間が衝撃に弱いことをよく理解できないようだ。
夏樹としては、五十過ぎたおっさんと自分を男の子という一括りにしてほしくない。
「はっ、は、は、はっ、は、はひゅっ、はひぃ、はひゅ」
「えっと、夏樹くん?」
「一登? どうして、そんな苦々しい顔をしているの?」
「そりゃするよ。この人どうするの?」
「……一応手加減はしたんだよ。ギリギリの一線を超えないちょっと弱めで」
「いっそ一線を超えてくれていたら楽になれていたのに」
「マジな話さ。加座間家だっけ。このおっさん程度、いつでも殺せるんだよ。相手にもならないんだよね。だけど、それじゃ駄目だ。こいつは俺の敵になった。殺さないのなら、死んだ方がマシな目に遭わせて、二度とこんなことをしないように恐怖を刻む必要がある」
「気持ちは、わかるよ」
夏樹としても、配慮しているのだ。
月読が加座間家に関わるなと言った。死の神は本当に死を与えるので、関わらない方が良いと。
しかし、向こうからやってきた。ならば最低限の防衛はする必要がある。
だが殺してしまえば、情報が欲しい月詠の邪魔をしてしまうだろう。
「吉座くん、聞こえているかなー? 二度とこっち側で何かしようとするな。一般人として、息を潜めて、二度と俺に会わないことを祈りながら生活しろ。その代わりに、生かしておいてやる」
吐き捨てた夏樹の言葉が吉座に届いているのか不明だ。
ちょっとだけ面倒くさくなった夏樹が、殺してしまおうかなと考え始めた時、
「かかか! 由良夏樹、わしと話をしよう!」
老人の声が響く。
軽く腕を振って瓦礫を細かく砕くと、倒壊した廃ビルの前に車椅子の老人がいた。
まるで枯れ木のような老人だった。
独特の霊力と魔力を持つ、歪な印象を受けた。
長い髭を撫でながら、夏樹たちを見て興味深そうに目を細めている。
そんな老人の背後には、二十歳ほどの女性が立っている。
そして、七森千手と佐渡祐介も一緒にいた。
「あ、千手さん! 祐介くん! なんでこんなところに!?」
「そりゃこっちのセリフだ!」
「それはこっちのセリフだよ!」
「あれー?」