作品タイトル不明
47「スマホの使いすぎで腱鞘炎じゃね?」
「はぁっ、はぁっっ、何が、起きたっ!?」
倒壊したビルの中で、加座間吉座は無傷――とはいかないが、大きな怪我をすることなく無事だった。
側近の男も意識は失っているが、問題はない。
雷とビルの倒壊というショックが大きすぎて失神したに過ぎない。
「……くっ、雷が落ちるとはなんとツイていない。まあいい、生きていればこのくらいのことはある。小学生の頃、好きな子の前でパンツをズラされたことに比べたら、こんなこと大したことではないっ!」
自らを鼓舞して瓦礫を蹴り飛ばし、立ち上がる。
側近を見捨てるのも違うと思ったので、担いで外に出ようと思った時だった。
――スマートフォンが鳴った。
「誰だっ! こんな時に! いや、いい、むしろちょうどよい。助けに来させよう」
特にディスプレイを確認することなく、吉座は通話に応じた。
「――私、ギャラクシー河童勇者なっちゃん。今、吉座くんの背後にいるの」
刹那、濃密な殺気を感じ取り反射的に振り返った。
――同時に、吉座の肉体が脳天から股間にかけて縦に断ち割られた。
痛みは感じない。
ただ、死んだという実感だけが襲いかかってくる。
あまりにも恐ろしい。
意識が消えていく。
これが、死か。
長い、長すぎる。早く、死にたい。
こんな恐怖は味わいたくない。
血が、流れていく。
臓物が溢れる。
誰か、助け――。
「――はっ、はぁっ、はぁぁ、はっはっはっ!?」
急に意識が戻った。
身体に触れる。
間違いなく斬られたはずだった。
流れる熱い血と溢れる臓物の感触はあまりにも現実だった。
だが、斬られていない。
目の前には、不気味に笑う少年がいるだけ。
そんな少年の背後に、中学生が三人いる。
「どうしたの? 吉座くんったら、まるで真っ二つに斬られて死んじゃったような顔をして」
「きさ、貴様っ、俺に何をした!」
「――何も」
少年が笑みを消し、淡々とした冷たい声を出した。
ゾッとし、額に汗が浮かぶ。
なんだ、こいつは。「何」だ、こいつは。
向かい合っている少年を「人」とは思えなかった。
人外とも、神とも違う。
ただ、「禍々しいナニカ」だ。
吉座は逃げたくなった。
同時に逃げられないと思った。
背中を向けようものなら、殺される。
何も持っていない素手の少年に「斬り殺される」という確信があった。
「お前は何者だ……人間じゃない、お前は、人間じゃない」
「酷いなぁ。俺は、あんたが攫おうとしたギャラクシー河童勇者由良夏樹だぜ?」
「――由良夏樹だと! そうだ、その顔は間違いない! それに、その声は、先ほど俺に由良夏樹の身柄を預かったと言ったのもお前か!」
「そうだ。俺の身柄は俺が預かっている。メリーさん流、話術!」
「黙れ、ガキが! 河童だがメリーさんだが知らないが、俺が送ったはぐれたちはどうした! まさか本当に中学生が倒したわけじゃあるまい!」
「俺が倒しましたけどなにか?」
「――嘘をつくな!」
「嘘じゃないもん! 信じてくれないなら、それでもいいよ! 俺のことは信じなくても、ギャラクシー河童勇者のことは信じてあげてくださいパーンチ!」
「――かぴぽっ!?」
会話をするのが飽きた夏樹が流水のごとき動きで吉座に肉薄すると、力を込めた膝蹴りを股間にめり込ませた。
一部始終を見ていた一登が内股になった。