作品タイトル不明
40「さすがにありえなくね?」①
「ふぁ」
日曜日の朝。
なんだかんだで月曜日の夕方に異世界から帰還して、七日目の朝を無事に迎えることになった。
異世界の苦痛な日々に比べると天と地の差がある現代日本での生活に感動し、感謝して月におやすみを言い、太陽におはよう、と言うほど夏樹の心は晴れやかだ。
「うーん。今日はいいことありそう」
寝巻きがわりにしているジャージ姿で、歯を磨きながら郵便ポストから新聞を取る。
春の風が気持ちいいので、新聞片手に玄関の前で歯磨きしていると、散歩中の近所のおばちゃんが挨拶してくれたので、夏樹も挨拶する。
こんな何気ない生活が、涙が出るほど大事だった。
朝と言っても、日曜日なので普段よりものんびりだ。
時刻はすでに八時半過ぎ。
小梅と銀子は母と一緒に酒盛りをしていたのでまだ寝ている。
ジャックとナンシーはモーニングコーヒーを飲みながら、いちゃついていた。
昨日は、一登に霊能関係がバレてしまうなどあったが、起き抜けにスマホを確認すると、今日も遊びに来たい旨が書かれていたので、きっと受け入れたのだと思う。
というか、「霊能力者? あ、はいはい。でも宇宙人のほうがすごくね?」と夏樹でさえ思うイベントが昨晩あったので、一登的にも霊能関連は受け入れやすくなっていたのだと思う。
宇宙にまで行っておいて、今さら一抜けはないだろう。
「ふぁぁぁ。夕方には銭湯行くけど、それまでなにしよっかなぁ。一登と久しぶりに遊びたいなぁ」
今まで適当に歯を磨いていた夏樹だが、異世界では歯磨きの概念がなかったため、歯ブラシを使って歯を磨くことが気持ちいいことだと認識していた。
異世界ではちょっと魔法が使える人間が周囲の人間の口内をささっと浄化していた。ちょっとした魔法に頼ってしまうせいで、歯磨きが生まれなかったようだ。
ミントの爽快感が口の中から消えたので、うがいをするため家に戻ろうとした時だった。
「――夏樹くん!」
どこかで聞いたような、聞いてないような女性の声が名を呼んだので、夏樹はつい振り返ってしまう。
「はい?」
家の前に、ひとりの女性が立っていた。
大学生くらいの年齢だ。
どこかおっとりした感じがして、優しい雰囲気がある。だが、どこか黒く濁った負の感情を感じるのは気のせいだろうか。
ロングスカートを履き、カーディガンを羽織っている。
どこかで会ったことがあるかなとしばらく考えた夏樹はふと思い出した。
彼女の名前は、大西さやか。
小学生の頃、家庭教師をしてくれていた近所のお姉さんだ。
いつの間にか優斗と知り合っていて、すぐに家庭教師の時間は終わった。
家庭教師と言っても、宿題を一緒にやってくれる程度で、当時はさやかも高校生だった。
実際、面倒を見てもらったのは一ヶ月ほどで、すぐに優斗の家庭教師をするようになったので、「ああ、またか」と思ったりもした。
だが、普段、あいさつとちょっと話すくらいだったので、特別親しかったわけではなく、優斗にかかりきりになった時でさえ、勉強から解放されたという気持ちの方が強く、優斗に感謝さえした。
以来、彼女は顔を合わせるたびに「優斗くんのように頑張らないと」と言うようになったが、これと言って害はなく、幼馴染みや義妹のように問題になるようなこともない。
もう三年ほど挨拶と小言以外の関わりはなく、どちらかというとご両親の方が喋るし、挨拶をしていた。
そんなさやかが何の用だ、と首を傾げた夏樹に、彼女は爆弾発言をした。
「――私のお腹に夏樹くんの子供がいるの」
「――は?」