作品タイトル不明
41「さすがにありえなくね?」②
「これより童貞裁判をはじめます!」
由良家の茶の間には、座布団を五枚重ねて座る裁判官コスプレをした銀子の前に座布団なしで正座させられている夏樹の姿があった。
夏樹の背後には、海外ドラマに出てきそうな態度の悪い警官のごとく警棒をパンパンしながらガムをくっちゃくっちゃしているミニスカを履いた警官コスプレをした小梅がいる。
夏樹の弁護人はジャックだ。ナンシーは陪審員となっている。
母春子は、今回のできごとに「あらあら困ったわねぇ」と困惑気味だ。
「――有罪! 死刑!」
「早い、早いよ銀子さん! 俺、なにも言ってないじゃん!」
「童貞を偽るのは重罪っす。軽くて無期懲役っすのに、相手を孕ませたとなったら商店街引き回しの上、去勢っす!」
「俺は無罪だ! 女の子とちゅーしたことだってないのに、なんで子供ができるんだよ! あれか? コウノトリさんが運んできたのか!? それともサンタさんか!? もしくはサタンか!? 一周回ってゴッドの仕業だろ! 俺に試練を与えているんだろ!? 間違いない、ゴッドって奴が悪いんだ! ごめんなさい、勘弁してください!」
しくしく泣き始める夏樹に、ジャックが弁護を始めた。
「裁判長。ここまで真摯に訴えている夏樹が嘘をついているとは思わない。私は友を信じたい」
「――ジャック! さすがジャック! 酒ばっか飲んでる銀子さんと小梅ちゃんとは違う!」
「侮辱罪も追加っす」
「ああ、しまった。俺のお馬鹿さん!」
夏樹がなぜこのような茶番のような裁判をされているかと言うと、かつて家庭教師をしてもらったことのある大西さやかが急に訪ねてきたと思えば「夏樹くんの子供を妊娠した」と告げたことから始まる。
清い身体である夏樹にはまったく身に覚えがないのだが、「ほら、お腹触って?」と負の感情が宿った瞳で詰め寄ってくるさやかに対して、異世界で強敵と戦ったときでさえ感じなかった恐怖を覚え「きゃぁあああああああああああああああ」と叫んでしまった。
夏樹の悲鳴に小梅、銀子、ジャックが飛び出してきてくれたのだが、ここでまたさやかが「妊娠したんです」と言ったものだからさあ大変。
童貞裁判が始まってしまった。
さやかは帰ってくれる気配がなかったが、母がさやかのご両親に連絡してくれたそうで、すぐに飛んできてくれた。
ご両親も娘が妊娠していることは寝耳に水だったようだ。
しかし、夏樹に文句を言うわけではなく、冷静に「病院に行って確認をとって連絡します」と深々と頭を下げていった。
もしかするとご両親は、さやかの言葉に心当たりがあるのか、もしくは、なにか他に思うことがあるのかもしれない。
「あ、ちょっとごめんなさいね。大西さんからお電話がきたわ」
春子はそう言って茶の間を出て自室に行ってしまう。
「んじゃ、茶番はやめるとするか」
「そうっすね」
「え? え? え?」
解散、とそれぞれ立ち上がり、丸テーブルを戻し、座布団を敷いて座る。
ひとりだけ正座させられたままの夏樹は、急な展開になにがなんだかわからず目を白黒させていた。
「あの女の腹に命が宿っていない事くらい、探れば一発でわかるじゃろ」
未だ、事情を呑み込めていない夏樹に、小梅があきれたように言った。
「あ」
「なによりも、夏樹の好みはあーゆーゆるふわな女ではないんじゃな」
「そうっすよ。あんなお手本のような女子大生に興味がないことはすでに調査済みっす!」
「なななななな、なにを急に」
嫌な予感がした。
(お、落ち着け夏樹。落ち着くんだ。俺は今までどんな敵だって倒してきた。そうだ、俺は強い! そんな俺が考えに考えたパソコンのパスワードが突破されているはずが……!)
「夏樹のパソコンには、歳上のキレイ系お姉さんの画像や動画がめちゃくちゃあったんじゃ!」
「夏樹くんも若いっすね。足の綺麗なスレンダー美人が好きなんすねぇ」
「ぎゃぁああああああああああああああああああああああ!」
かつて異世界で隠しボスのごとく現れた魔神の攻撃よりも強力な攻撃を受け、夏樹はその場に倒れたのだった。