軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

39「まもんまもんじゃね?」

日本のとある地方にある、小さな一軒家。

リビングのソファーでくつろいでいるのは、三十代半ばに見える男性だった。

スラックスにシャツというラフな出立ちだが、これでもかというほどジャラジャラと金の飾りを腕、首、足に身につけている。

灰色の髪は肩まで伸び、だらしなさを感じるが、不快ではない。

「……来たか。悪かったな、こんなところまで来させて。疲れただろ。テーブルの物は好きに飲み食いしてくれ。まもんまもん」

「いやー、マモンさん、こっちこそ遅くなってすみません。まもんまもん」

男性の正体は、魔族の幹部であり七つの大罪の強欲を司る――マモンだ。

マモンににこやかに挨拶したのは、アルフォンスを襲った青年だった。

「面倒な役を押し付けたな。アルフォンス・ミカエルは邪魔というか、鬱陶しいので退場してもらいたかった。あれも、弱いなんて言われているがあくまでもミカエルとして弱いだけで天使としては強い。そんなアルフォンスを倒したお前さんもなかなかだがな」

「強かったですよ。七割くらいの力を出したのって初めてじゃないかな」

「はっ、人間が全力を出さずに天使をぶっ飛ばすとは大したもんだ、まもんまもん」

マモンは青年を見た。

これと言って傷を負っていない姿を見て、感心する。

青年は俗に言う霊能力者という人間だ。

本来ならば、人間が天使を倒すことなどできない。だが、彼は倒せた。

なんてことはない。彼が規格外に強い人間であるからだ。

「ところで、マモンさん。仲介業者の人はどこに行きました? あの人からお金をもらう約束になっていたんですけど」

「ああ、俺が殺しておいた」

「……あー、これってもしかして用済みだから殺しちゃう的な感じですか?」

「まもんまもん。俺がそんなことするわけないだろ、面倒臭え。俺は強欲だが、面倒ごとは嫌いだ。だが、強欲であり悪党ゆえに、悪党気取りの小物は大嫌いだ」

マモンと青年を繋いだのは、自称仲介業者を名乗る『はぐれ霊能力者』だ。

普段は人間相手に、霊能力者を紹介して裏家業をさせて金を稼いでいる人間だった。

それだけなら構わない。

だが、弱者の分際で強者を利用し、金を掠め取っているのが気に入らない。今後は青年と直接やり取りをすると言うマモンに改めて仲介料を求めてきたので、欲を出したことを後悔させてから殺した。

「お前は強いが、一般常識がないな。子供のため、仲間のためと頑張っても世間知らずのせいでいいように利用されて腹を空かせている。それは強者のあり方じゃない」

「えっと」

戸惑う青年に、マモンは苦笑する。

青年は、常識がないのか、それともお人好しなのか、金ではなく現物支給で働いていた。

米を始めとした食べ物を得て、その対価に戦っている。

仲介業者は、青年で稼いだ金で豪遊しながら、適当に買った食材を渡しているのだ。

「利用される方が悪いが、それでも美学がない。なによりも俺に欲を見せたことが死につながった」

「……あの、じゃあ、どこからお給料をもらえばいいんですか?」

「俺がやる。ほら、これで好きなもんを買え」

リビングのテーブルに札束を置いた。

「お金かぁ」

「……金をもらってがっかりするやつを初めて見た。まもんまもん。だが、俺は強欲だが慎重なところもある。台所を見ろ」

「……美味しそうなご飯がありますね」

「艶やかな白米、じっくりコトコト煮たポトフ、まだ焼いていないが育ち盛りにはたまらない肉、そして食後のデザートも忘れていない。これもすべてくれてやろう」

「いいんですか!?」

「金より飯か。お前の境遇を考えると、目の前の飯の方がありがたみがあるんだろうな」

「それはそうですって。食べないと死んじゃいますから」

青年の境遇は、仲介業者を殺す前に聞いていた。

一般家庭に生まれながら、規格外の霊力を持っていたせいで、よくないものを呼び寄せてしまっていた。

よくある話だ。九割ほどが、その後、霊能関係に保護されておしまいなのだが、青年の場合は親が屑だった。

まるで物でも捨てるように、子供だった青年を捨てた。

空腹に困って盗みを働き、力を使えるようになり、各地を転々としていたところ、同じ境遇の子を見つけては家族として迎え、支えて生きてきた。

そんな折、仲介業者と知り合い、裏稼業をさせられていた。

今では、ボロ屋に十数人の子供と身を寄せ合いながら生活している。

常識に疎く、お人好しでありながら、力だけは規格外。利用するにはもってこいだったようだ。

「まもんまもん。この家にある食糧、衣服、好きにしていい。俺からの些細な贈り物だ」

「あ、ありがとうございます! うわー、嬉しいなぁ。子供たちにお腹いっぱい食べさせることができるよー。あ、でも、仲介業者さんが死んじゃったのなら、これからお仕事どうしよう?」

「俺がしばらく使ってやる。天使と悪魔に喧嘩を売るんだが、手駒が足りない。つーか、役立たずが多くて困る。それに比べたらお前は優秀だ」

「よかったぁ。ありがとうございます、まもんまもん」

「おう、まもんまもん。俺はお前が気に入った。その力が欲しい。どうだ、雇われるではなく、俺の部下にならないか? 俺に忠誠を誓うなら、お前を、お前の保護しているガキも良い暮らしを約束してやる。衣食住、学校にも通わせてやるし、年を重ねたら結婚して家庭を作ることだってできるぞ」

マモンの言葉はまさに悪魔の誘惑だった。

しかし、青年は首を横に振るう。

「気持ちは嬉しいんですけど、僕たちは決めたんです」

「ほう?」

「人として生きて、人として死のうって。人間として魔族さんに雇われても、魔族側にはいきません。天使も神も、僕たちには――家族じゃないので」

「まもんまもん! いいぜ、気に入った。あくまでも契約でいいぞ。俺は誇り高きマモンだ。契約は守ろう。お前が、働いてくれるなら、同じ分だけ報いていてやる。人として生き、人として死ぬために、俺を利用しろ」

マモンは青年に向かって手を差し伸べた。

青年は少しの間を置いてからマモンの手を取った。

「よろしくお願いします、まもんまもん」

「ああ、よろしくな。まもんまもん。ああ、そうだ。俺は強欲だが少しうっかりさんなところがある。仲介業者を殺す前に、大事なことを聞いていなかった。お前の名前を教えてくれ」

握手をしながら名を尋ねたマモンに、青年は笑った。

「僕は――小林蓮です」