軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

38「銭湯って最高じゃね?」

「ただいまー」

夏樹とジャックが徒歩で帰宅すると、母春子が出迎えてしまった。

「もう夏樹ったら、ジャックくんを連れ回してこんな遅くまで! 携帯も繋がらないし、どこ行ってたの!」

「ご、ごめんなさい、ちょっと海賊と戦ってて」

「嘘をつくならもっとちゃんとした嘘をつきなさい! ほら、ご飯温めてあげるからジャックくんと一緒に手を洗って」

「はーい」

「夏樹を連れ回してしまい申し訳ない。以後気をつけます」

「いいのよ、ジャックくん。夏樹もジャックくんみたいに落ち着いた子になってくれるといいのだけど」

ジャックと一緒に手を洗ってうがいをすると、台所のテーブルにつく。

茶の間では銀子と小梅、ナンシーが一杯やっており、おそらく母も参加していたのだろう。

「おう、遅かったんじゃのう」

「なにかイベントに巻き込まれたんじゃないっすかね」

「ぎゃははははは! 今度は宇宙人と戦っとるんじゃないか!」

「うわー、やべーっす!」

酔っ払いふたりも、まさか冗談で言った宇宙人との戦いを本当に夏樹がしてきたとは思ってもいないだろう。

ナンシーがジャックにおかえりのキスをするのを見て、ジャックは勝ち組だなぁと思う。

「俺様たちもちゅーしてやろうか!」

「今ならサービスっすよ!」

「いえ、酒臭いんでいいです!」

「なんじゃとぅ!」

「あんだとぅ!」

いい感じに酔っ払っている小梅と銀子は放っておいて、ジャックと一緒に夕食を食べた。

夕食は母が作った肉じゃがとだし巻き卵に味噌汁だ。

温め直してくれた肉じゃがは、じゃがいもに味がよく染みていて、ほろほろと口の中で溶ける良いお芋だった。

由良家では、玉ねぎと豚バラ肉、そして糸こんにゃくを入れている。少し濃いめに味をつけると、圧力鍋を使ってさくっと作るのだ。

だし巻き卵もいつもの味だ。少し砂糖を入れて甘めに味を整えているのが由良家スタイルだ。

やはり母の作った卵焼きが一番美味しい。

そして、白米。艶やかに炊かれたもちもち系のお米はとても食べやすく、甘味もあった。母のこだわりでお米は商店街のお米屋さんで食べ比べをしている。夏樹には美味しいか好みではないくらいなのだが、母はもっと繊細な味を感じ取れるようだ。

そして、お袋の味といえば味噌汁だ。わかめと豆腐に油揚げ。疲れた体に塩っ気が嬉しい。

「あー、日本人に生まれてよかったー」

「大げさねぇ」

「日本人ではないが、素晴らしい食事に感謝します」

「もう、ジャックくんまで」

夏樹はお腹も空いていたこともあり、ガツガツ食べていたが、しっかり味わうことは忘れない。

異世界で数年の間飲食をしていなかったので、ひとつひとつの食事に感動を覚えている。

味噌汁に至っては、異世界に存在すらなかったのだから。

「夏樹、明日の予定はあるかな?」

ジャックに尋ねられ、うーん、と夏樹は唸る。

一登が来る可能性がないわけではないが、これと行って予定はない。

もしかしたらまた天使や魔族が遊びに来るかもしれないが、それは考えないようにした。

「ないよー。どうしたの?」

「商店街の外れに銭湯を見つけたのだ。できれば、行ってみたい」

「あーあー! 銭湯あるよね。よく行ったなぁ。おじさんとおばさん元気かなぁ」

最近はスーパー銭湯が増え、向島市にも何軒かある。

しかし、夏樹は近所の銭湯の方が好きだった。銭湯に行けば知り合いがいて、コーヒー牛乳を奢ってもらうこともあった。一登ともよく一緒に行っていた。

夏休みには掃除を手伝う代わりに一番風呂に入ったこともある。

「何言っているの、夏樹。ちょっと前に銭湯に行ったばかりじゃない」

「あれ? そうだっけ?」

「夏樹ったら、足を伸ばしてお風呂に入りたいって言って。覚えていないの?」

「あー、そうだったかも」

体感的に何年も経っているため、銭湯に最後に行ったのがいつだったか覚えていない。

異世界ではサウナが基本で、風呂もあったのだが、お世辞にも綺麗なお湯とはいえなかった。

魔族たちのほうがよほど清潔な暮らしをしていた。

夏樹は浄化魔法を早々に覚えたので、風呂に入らず身を清めていた。

「よし、銭湯に行こうぜ!」

「ありがとう! 明日を楽しみにしている!」

笑顔を浮かべるジャックに、夏樹も釣られて笑顔になった。

異世界から帰還して六日が経ったが、慌ただしい日々なので日曜日くらいはゆっくりしたい。

夏樹は心底そう思った。