作品タイトル不明
29「もしかして話がちゃんとできる系じゃね?」①
――加座間源蔵。
加座間家当主にして、加座間家の念願である霊能力者として力を得て、院の中核に食い込んだ傑物である。
霊能力者としては、彼より力を持つ人間は多くいるが、加座間源蔵と敵対しようとする者は少ない。
その理由は、目的のためなら手段を厭わない人間であることを誰もが知っているからだ。また敵味方の線引きがはっきりしており、敵対者に対してはとことん追い詰める冷酷な一面を持ち合わせている。
何よりも、加座間家が何をしているのかわからない一族であることから、敵対せず、とはいえ味方もせず、極力関わらないことが正解であると言われている。
そんな加座間家当主加座間源蔵が目の前にいることに、千手は顔には出さずに緊張していた。
悪党でいえば、七森康弘の方が上だ。人の嫌がることを的確にやってくる康弘の手腕は一種の才能だろう。
しかし、源蔵は違う。八十年という時間の中で培った経験を使い、真正面から潰しに来るだろう。
二十代の千手など、源蔵からしたらまだ子供であろう。
「そう緊張することはない、七森千手。今日は、話に来ただけだ」
やや掠れた声には、どこか親しみがあった。
源蔵が大学のどこかに仲間を連れてきていても、総合的な戦力であれば、勇者と鬼がいる千手たちの方が上だろう。
だが、安心できない。
気づけば裏をかかれている未来しか見えない。
「話、ね」
「お前たちが加座間家を調べているのは知っている。もともと隠し事の多い一族だ。探られることは珍しくはない。沙也加が一般人だったのは驚きだったがな。かかか」
「……俺からしたら、元から裏にいた人間よりも表から裏に入った人間の方がおっかないぜ」
「違いない」
霊能力者の暗黙のルールが通じない人間の方が怖いことは多い。
由良夏樹然り、佐渡祐介然り、川崎沙也加然り、そして加座間源蔵も、だ。
「それで、話って言うのはなんだ?」
「――月読命様にお目通り願いたい」
「おい、マジかよ」
月読命は、名前こそそのままだが人として教師生活を送っている。
霊能関係者からも「月読命を祀る一族」と思われていた。
祀る神の名を借り受けることで、特別な力を持つ者もいる。
そのような霊能関係者だと考えられていたのだ。
しかし、実際は違う。
――月読命本人である。
その事実を、月読と接点のない加座間源蔵が知っていることに、千手は動揺を隠せなかった。