作品タイトル不明
20「この展開は、古くね?」③
黒髪をツインテールにした少女が夏樹を指差し、「変態」扱いした瞬間、教室の空気が死んだ。
まず、この場にいる誰もが「いや、誰?」と思った。
まったく心当たりがない。
次に、「なんだ由良関係者か……って、嘘、由良がパンツ覗くんだ。へー。そうなんだ、へー」みたいな感想を抱く。
嫌悪の表情を見せるもの。
ちゃんと由良にも人間らしいスケベな一面があるのだと安心するもの。
仲間を見つけたように瞳を輝かせるもの。
反応はそれぞれだった。
「……うわ、由良、サイテー」
そう呟いたのは、ふたつ隣の席に座る幼馴染みの森陽菜だった。
彼女の瞳は、汚物でも見るような目だった。
「ち、違うよ。森さん! こっちが見せられたの!」
「……はーん?」
「あの子がフランスパンを一本縦に咥えて走ってきたからぶつかっちゃったんだよ!」
「あのね、食パンでも創作だっていうのに、フランスパン一本加えて走る女子中学生がどこの世界のいるのよ!」
「この世界にいるよ! そこにいるよ!」
夏樹は悲しかった。
昔の漫画なら、「キャースケベ!」くらいで終わるはずなのに、現実だとあまりにも厳しく辛い。
「――冤罪だ!」
「加害者はみんなそういうのよ!」
「森さん!? 俺のことを信じてくれないの!?」
「……由良、あんたね」
「俺は美脚にしか興味がない!」
「――っ、あんた教室のど真ん中でそんな大きな声で性癖を自分から暴露するなんて。ごめんなさい、きっと誤解があったのよね。あんたの目を見れば、わかるわ」
夏樹の渾身の告白に、クラス中がざわめく。
隣の席の片岡慶に至っては、口を抑えて勇者でも見る様な目で夏樹のことを見ていた。
他の男子たちも、夏樹に手を合わせている。
女子は、ドン引きした顔をしているが、こればかりは仕方がない。
「ありがとう。森さんなら信じてくれると思っていたよ」
「あんたの勇気の結果よ。まさか、クラスメイトの前で美脚が好きだなんて言うとはおもわんかったわ」
「ふっ、家族どころか近所のおばちゃんたちにまでバレている俺の性癖がクラスメイトにバレたところで痛くも痒くもない――なんてことはないけどね! 俺には信念がある! それに美脚好きは恥ずかしいことじゃない!」
男子たちがついに拍手を始めた。
森は、夏樹の目を見たことで、嘘をついていないと信じてくれたのだろう。
黒板の前に立つ少女に声をかけた。
「そこのあなた。どうやら誤解が生じた様ね。事故で下着を見たことは事実なんでしょうけど、故意ではなかったということで許してあげてほしいわ」
「……あ、はい」
この展開についていけなかった少女が、呆然と頷いた。
「……ところで、その、あなたは誰なの?」
森の疑問にクラスメイトたちが「確かに!」と少女の正体を気にした。
視線が集まったことに、少女が咳払いをすると、きゃるん、と笑顔を作って横チェキをした。
「はじめまして! 私は、今日からこのクラスの一員になる青春すみれです! よろしくね!」
「あ、転校生だったんだ。転校初日から由良に関わるなんてついていないわね。でも、せっかくクラスメイトになるんだからみんなで仲良くしましょう!」
「そうね! 仕方がないから、今回は許してあげる! 感謝しなさいよ!」
「…………うっす」
不服そうな声を出す夏樹だが、せっかく森が場を納めてくれたのだ。
余計なことは言わない。
納得した森が着席すると、今まで呆然としてことの成り行きを見守っていた月読がゆっくりと、きまずそうに口を開いた。
「……大変言い辛いのですが……青春すみれさん。あなたのクラスは、隣です」
「――あれ!?」
――由良夏樹のレベルが一上がった。
「いろいろ言いたことあるけど! なにこれ! なっちゃんついていけない! もう限界! おうち帰りたい!」