作品タイトル不明
12「出会ってはいけなかったふたりじゃね?」
夏樹と円はハンバーガーショップで会話を弾ませたあと、円が行きたいと子猫や子犬などと触れ合える施設に行った。
円が子猫と子犬と戯れる姿は、美しい絵画のようだった。
ペットを飼いたいと思っている円だったが「星熊と熊を飼っとるしなぁ。食費すごいんよ」と遠い目をしていた。
どうやら星熊童子と熊童子は円にとってペット枠らしい。
そんな円が鬱憤を晴らすように子猫と子犬を可愛がり続けた。
こっそり人面犬が施設の中に紛れ込んでいたが、些細な問題だろう。
「あー、楽しかった! こうやって円ちゃんと一緒に買い物できて嬉しかったよ。また行こうね!」
子猫も子犬もまったく寄り付かないどころか、近づくと逃げたり失神したりしてショックを受けた夏樹だったが、一日を振り返ると楽しかった。
小梅たちとの日々も涙が出るほど楽しいが、円と過ごした時間は懐かしさもある。
かつて京都にいた頃の記憶が思い出されて、胸を切なくした。
「――せやね。またお出かけしよな」
円が微笑む。
その顔は、かつて京都で夏樹に向けていた頃の笑顔と遜色ない。
「うん! 約束だね!」
夏樹と円は、昔を思い出して、指切りをすると小さく吹き出してしまった。
■
向島市に帰ってきた夏樹と円は、駅前で別れた。
夕食も一緒に食べないかと誘ったのだが、円は笑って「星熊と熊の世話があるんや。残念やけど、また誘ってぇな」と言って手を振った。
名残惜しいが、仕方がない。
これからはいつでも会える。夏樹も円に手を振って帰路に着こうとして、
「――そういえば、小梅ちゃんと銀子さんにお土産でも買っていこうかな」
以前、お皿を買いに行ったせともの屋さんにグラスの扱いがあったことを思い出す。
小梅も銀子もめちゃくちゃ薄いグラスでビールやハイボールが飲みたいと言っていた。
お酒を嗜まない夏樹としては、グラスが薄いことでどうなるのかまったくわからないが、喜んでくれるかもしれないから買っていくことにした。
ついでに母とサタン、ジャックとナンシー、リヴァ子の分も買っていこう。
なんなら来客用にも良いかもしれない。
グラスを置く場所があるかどうか不安だが、それはあとで考えればいい。
「お、河童の兄ちゃん!」
「はい。河童です。ギャラクシー河童勇者の由良夏樹と申します」
「お、おう。久しぶりってわけじゃないが、またきてくれて嬉しいぜ。今日はどんな皿をお探しだ?」
せともの屋の店主のおじさんは甚平を着て気さくに出迎えてくれた。
「今日はグラスが欲しくて」
「グラスを頭に乗っけるのか!?」
「…………違いますよ。家族が使うんですよ」
「おっちゃんびっくりしたわ! だよな、河童は皿だもんな。グラスじゃないもんな」
うんうん、と店主の中で何か折り合いがついたようだ。
「グラスはあっちだ。説明入るかい?」
「とりあえず見てみます」
「おう。ひとつだけ、グラスはフィーリングだ。手に取った時にしっくりきたら、買いだぜ!」
「う、うっす!」
俺が使うんじゃないんだけどな、と思うも、フィーリングの大切さはわかる。
グラスコーナーに足を運ぶと、先客がいた。二十歳ほどの青年だ。
お互いに気づき、軽く会釈をする。
「えっと、あ、これこれめっちゃ薄いグラス」
「これだな、めっちゃ薄いグラス」
夏樹と青年が手を伸ばした先は、同じグラスだった。
「…………あれ?」
「…………うん?」
どうやら目的は同じようだ。
しかし、夏樹は優しい子である。
譲り合いの精神だ。
「あ、すみません。どうぞ」
「いや、こちらこそすまん。どうぞ」
「いえいえ、家の飲兵衛にグラスでもって思っただけですから、どうぞ」
「気にすんな。俺の養い子が二十歳になった記念に一緒に飲もうと思ってグラスを選んでいただけだから、どうぞ」
「いやいやいや、ストーリー的にそっちの方が重要じゃん! 我が家の飲兵衛なんてどうでもいいから、お子さんと一緒にうっすいグラスで乾杯して!」
「そうか?」
「そうだよ!」
「すまない。いや、なんだ、俺は別に養い子などと一緒に飲みたくはないんだぜ。才能があったから拾ってみたものの、特に利用する場面もなかったから勝手に育っただけだからな。大人になれば、勝手に生きるだろうさ。これを巣立つって言うんだろう? だが、違う。あの子は元から巣立っていた。俺はただ……」
「なんか悪ぶろうとしているけど悪ぶれてないよね!? 泣かないでよ!?」
急に言い訳のように語り出した青年に夏樹は困惑を覚えた。
同時に、「あ、こいつ新たな神々だ」とも確信した。
――これが、夏樹と悪行の神のファーストコンタクトだった。