作品タイトル不明
間話「まもんまもんな監督じゃね?」①
――青森某所。
ざっ、ざっ、ざっ。
女がスコップで土を掘っていた。
時間をかけて掘った穴は、成人男性が入っても余裕がある大きさだ。
深さも外部からの影響で掘り返されてしまわないように、念入りに深く掘った。
「…………これだけ掘ればいいだろ」
女は額の汗を、土のついた軍手の甲で拭った。
「お前が悪いんだ。ここに来なければ、あんなことを言わなければ、こんなことにならなかったのに」
女の傍には、動かない少年が横たわっていた。
女は後悔していた。
同時に、憤りも感じていた。
なぜこんなことになってしまったのか、と。
ちらり、と倒れる少年を見る。
少年の頭部は潰れ、溢れ出した血が地面を赤く染めていた。
大きく見開いた目がまるで彼女を咎めているようで、女は目を背けて穴をもう少し大きくする。
しばし無心に穴を掘り続けていた女は、いい加減、次の行動に移すべきだと自らを叱咤した。
一度は大丈夫と思いながら、穴を掘り続けたのは、罪悪感と自分の選択に迷っているからだ。
同時に取り返しのつかないことをしてしまったのは事実。
――女は少年の「亡骸」を埋めてしまうことを決意した。
「悪く思わないでくれ。巡り合わせが悪かったんだ」
掘っていた穴から出てくると、大きな深呼吸を繰り返してから、少年を担ぎ穴の中に入れる。
投げ入れなかったのは、彼女の残った良心だったのかもしれない。
「すまない」
小さく謝罪する女が踵を返し、穴から出ようとした時だった。
――突如、青年が動き、女の足を掴んだ。
「――――――ひっ」
爪が食い込むほどの力だ。
女は驚きながらも、少年の指を自らの足から離そうとする。
「――やめて!」
しかし、少年の指が離れない。
頭部が潰れているのに、なぜ動けるのか、まさか生きているはずがない。
だけど、もし、生きていたら、と女は恐怖を覚えた。
自然と持っていたスコップを握る手に力が入る。
気づけば、雄叫びを上げながらスコップを振り下ろしていた。
「はーい、まもんっ!」
少し離れた場所から、アウトドアチェアに座りメガホンを持った七つの大罪の魔族ことマモンが手を叩く。
「まもんまもん! 素晴らしい名演技です、さまたん様! ダンジョンの神こと略してダンくん! ナイスまもん! ナイスまもんまもん!」
マモンの声に続いて「お疲れ様でーす!」と亜子や周平たちが、タオルとペットボトルを持って穴から這い出てきた女――さまたんとダンジョンの神ことダンくんに手渡す。
手早く椅子を用意すると、土まみれのふたりが座った。
「……何させられてんだ、私?」
「今さらでまもんまもん!? 夏だからホラー動画を撮りましょうって言ったではまもんまもん! ちょうどよくダンくんの頭部が潰れていたので、サスペンス風味のホラーをまもんまもんすると話し合ったばかりではないですか!」
「そだね」
「このマモンがこっそり温めていた脚本でいざ撮影まもんまもん! と挑もうとした時、さまたんもノリノリだったはずなのに、なぜ急にまもんまもんとなっているでまもんまもん!」
「……いやさ、私、何やってんだろうって」
「二度目ですが、今さらでまもんまもん!?」
「というか、私の名演技を見た業界関係者が私をスカウトしにきたらどうするんだ! 私は農家であって動画配信者でも女優でもないんだぞ! スカウトは困るぞ!」
「ねーよ」
「まもんまもんって言えよ! ガチな声出すな!」
――青森はやっぱり平和だった。