作品タイトル不明
6「円ちゃんとお買い物じゃね?」①
恐怖の心霊体験をした夏樹は、学校をお休みすることにした。
なぜか月読も「あんなことがありましたからね……ゆっくり休んでください」と声が強張っていた。
あんなこと、とはなんのことだろう、と夏樹は首を傾げたが、休んでいいと言うのなら休ませてもらおう。
「――今日はイベントは勘弁してください!」
母に自主的に学校をお休みすることがバレたらアイアンクローされるので、学生服を着て家を出た。
きちんと玄関の前で、跪いて河童大神様に一日の平穏を祈ることは忘れない。
駅に向かって歩いていくと、幼馴染みの円から「駅に着いたでー」とメッセージが携帯に届いたので、夏樹は地面を蹴って跳ぶ。
人気のない駅前のビルの裏に着地すると、小走りで円を見つけて手を振った。
「おーい、円ちゃーん!」
「あ、なっちゃん! おはよう!」
「おはよー!」
ワイドパンツにオーバーサイズシャツを身につけて伊達眼鏡をかけて夏樹に笑顔を向けて手を振るのは、京都にしばし滞在した時に出会った年上の幼馴染みの安倍円だ。
「あれ? 学生服なん?」
「お母さん対策です!」
「あー、春子母さんは怒らせたらおっかないもんね」
「アイアンクローで頭の形が変わるくらいならいいんだけど、さすがに頭を砕かれたら俺もきっと死んじゃうから」
「……せやねぇ。それで死なんかったら、酒呑童子もびっくりだわぁ」
今の円は、かつてお互いのことがわからずに遠野の妖怪の里で再会した時とは違い、朗らかだ。
夏樹を目の前で茨木童子に襲われ、酒呑童子を殺すよう呪いをかけられた。以後、鬼をはじめとして妖怪を憎悪し、夏樹の仇を討とうとしていたのだ。
しかし、夏樹は生きていた。
その理由は夏樹自身にもわからない。
だが、茨木童子を倒し、円は解放された。
その後、異世界に挑む夏樹の助っ人として向島市に来てから滞在中だ。聞けば、向島市の高校に転校する準備はほぼほぼ終わったらしい。
「ほな、いこかぁ。ボク、いろいろ調べたんやけど、隣町にええお店があるみたいやから行ってみよ?」
「うん! ちゃんと水無月家からもらったお駄賃を持ってきたから、今日は上から下まで揃えるぜ! ファッションセンス皆無な俺に、どうかレクチャーよろしくです!」
「もちろんやで。ほな、いこ」
夏樹と円は、切符を買って改札を潜ると隣町へ向かった。
――今日は、度重なる戦いで駄目になってしまった夏樹の服と靴を買いに行くのだ。