作品タイトル不明
エピローグ「死の神じゃね?」
加座間家本家から離れた場所にある加座間家別邸の一室を与えられている二十歳ほどの青年は、ジーンズとシャツに裸足といった軽装でベッドに座り窓の外の夕焼けを眺めていた。
青年は、新たな神々の「死の神」である。
死の神には、感情がない。
少なくとも、表情にはまるで感情が浮かんでいない。
ただ、ぼうっと窓の外を眺めている。
それに何の意味もない。
夕焼けが沈み、窓の外が暗くなると、死の神はようやく口を開いた。
「――くだらない」
窓の外に広がる街で、いくつかの命が失われていた。
寿命であったり、病であったり、怪我であったり、自害であったり、事故であったりと、様々な理由で人が死んだ。
「なぜ、死ぬとわかっていて懸命に生きる?」
死の神には、人々の営みが理解できない。
「死を恐れながら、なぜ?」
死の神は、人間たちの死への恐怖、悲しみ。生への渇望によって生まれた神だ。
もう一柱、死の神がいる。だが、彼女は人間の「死への渇望」から生まれた神だ。
考え方、全てが違う。
彼女は人間が好きで、嫌いで、憎たらしく、愛おしいというが、青年は人間への感情がわからない。
「いずれ人は死ぬ。それだけは抗えない。抗ってはならない。すべての生物によって最後に訪れる平等な死。それが私だ」
死の神は、死を平等であり救いであると考えていた。
ゆえに、各地を転々として死を与えていた。
生きていることが苦痛だと嘆く人間に死を与えた。安らかに眠るように、死んだことに気づかないようにそっと死を与えた。
孤独に苦しむ人間に死を与えた。本人は生きていることが辛いと泣いていたから、哀れに思い、死を与えた。
何度も死にたいと思いながら、死ねず苦しむ人間に死を与えた。人間は感謝の言葉を残して死んだ。
だが、時に死にたいと願う人間に死を与えようとして、拒まれることもある。
他者に対して強い死を願う人間もいる。
まるで理解ができない。
――死とはなんだ?
死の神は自身の在り方がわからない。
死は平等だ。
新たな神々も、古き神々も死ぬ。これは決定事項だ。
動物も、植物も、この星さえも、いずれ死ぬ。
――死とはなんだ?
死の神は考えながら、死を乞う者を殺して歩いた。
気づけば、時代が変わり、明治、大正、昭和、平成、そして令和となった。
今まで死を与えた人間の顔は鮮明に覚えている。
忘れることなどない。
このまま変わりない日々を送ることに疑いなど抱いていなかった、死の神に出会いがあった。
幼い少女だった。
病院に入院し、病に伏せている。
毎日が苦しく、死が救いだと思った。
しかし、少女は死を望んでいなかった。
強く輝く瞳で、生きたいと渇望した。
いずれ死ぬかもしれないけど、それまで全力で行きたいと願った。
――死の神は、死を与えることができなかった。
しばし少女を見守ることにした。
死の神もいずれ死ぬが、それまで長い時間があるので些細なことだ。
同時に、ひとりの少女に興味を抱いたことに驚きもしていた。
少しずつ少女は回復していた。
まだ死につき纏われているが、初めて会ってから三年も生きた。
だが、ここで大きな問題が起きたようだ。
――金だ。
少女の治療のために金が必要らしい。
死の神は金品を持っていない。
必要としていなかった。
しかし、なぜか、金が必要だと思った。
そんな時、まるで見計らっていたように、加座間吉座という男が接触してきた。
男は気色の悪い笑い声を上げながら、少女への資金援助をすると言った。
――その代償に、不死なる存在を作る手伝いをしてほしいと願った。
不死など存在しない。
そう返事をした、死の神に、加座間吉座が笑う。
「――我々が作るのです。不死を。死の神、死を司る神であるのなら、死をなくすことができるのではないのですか?」
吉座の言葉は、死の神にとって、甘い毒のようだった。