作品タイトル不明
99「加座間家で企んでいるんじゃね?」①
向島市から離れたとある街に、加座間家はあった。
貿易商を営む一族の屋敷は、広く、使用人を雇うほど裕福であった。
『ショタエルフ侍らせてえ』こと、川崎沙也加は『人外っ子プリンス』こと佐渡祐介の同志にして盟友だ。
そして、行動力の塊でもあった。
加座間家から人外っ子がいるという噂を聞きつけ、黒服に追われ心が折れてしまった友人たちとは違い、自分の目で確認してからではないと諦めることはできなかった。
友人が多い、沙也加はあらゆるツテというツテを駆使して、加座間家の使用人として働くことになった。
最初は、母屋で働くだけの日々だった。
しかし、目の前のことを全力で取り掛かる沙也加は、同じ使用人仲間からの評判が高く、次第に加座間家の人々からも確実に信頼を得ていった。
まだ、由良夏樹が異世界に勇者として召喚され帰還する前の出来事である。
――そして、現在。
「意味がまったくわからん! なぜ人外とはいえ少年と少年を掛け合わせる必要がある! そもそも少年と少年では掛け合わせることができないではないか!」
「――そこは気合と根性と、加座間家の霊能パワーで男の子が孕む奇跡をぜひとも!」
「無理に決まっているだろう! 霊能力もそこまで万能ではないぞ!?」
「いけるいける!」
「いけないから!」
川崎沙也加は、加座間家当主加座間源蔵と意見を交わすほど加座間家に食い込んでいた。
黒髪をポニーテールにし、着物の上から割烹着を身につける姿はお手伝いさんではあるが、一族の当主と同じテーブルにつき熱弁を交わしている。
古い書物が並ぶ書庫で、古本の匂いと、ふたりの前に置かれる紅茶の香りが広がる中、孫と祖父のような年齢差があるふたりが声を大にする。
「沙也加よ。お前が人外共に愛情を注いているのはよくしっている。だからこそ、お前に世話を託している」
「――はい」
「しかし、少年と少年を合体させるのはどうかと思うぞ?」
「これだから頭の固く考えが古い堅物は!」
「――なんだと」
源蔵の周囲が揺らめく。
感情によって霊力が高まっているのだ。
しかし、沙也加は気にせず続ける。
「あのね、源蔵おじいちゃん。そういう固定観念を捨てることで、人類は一歩を踏み出せると思うの」
「言っていることはわかるが、それとこれは違うであろう。見てみよ、捕らえた猫又の少年が全力で首を横に振っているではないか」
「……おかしいわね。私には全力で首を縦に振って受け入れ体制準備万端って感じに見えるんだけど」
「眼科へ行け」
源蔵は八十を超えた老人だ。
痩せ細った身体に、禿頭と、顎髭が印象に残る。
袴姿に扇子を握る姿には、どこか品格があった。
「もう、源蔵おじいちゃんったら頑固なんだから。じゃあ、こうしましょう。源蔵おじいちゃんのお孫さんの桐生くんと、先日、三食昼寝付きを条件に加座間家にお呼びしたショタ水神様を」
「だからどっちも少年! 孫娘がいるのにあえて孫息子をチョイスする沙也加の頑なな意思がまったくもってわからん!」
老人とは思えぬ大きな声に、書庫に並ぶ本棚が震え、猫又の少年が怯えた様子を見せた。
やはり気にすることなく、沙也加は堂々と胸を張る。
「――性癖よ!」
源蔵と猫又の少年は顔を見合わせ、何度か瞬きすると「えぇぇ」と引いた。