作品タイトル不明
間話「あとで話そうとしたことって大体忘れね?」②
――青森某所。
サタンとさまたんが行きつけの居酒屋で飲んでいると、暖簾をくぐって愛の女神こと愛ちゃんが現れた。
「おばあちゃーん、やってるー!?」
「もちろんよー。いらっしゃい、愛ちゃん」
「こんばんはー! とりあえず、生で! あと、キープしている焼酎のボトルで水割りをお願いしまーす!」
幼さが残る愛ちゃんだが、居酒屋に行くために裏ルートで戸籍を取得している。
この店もさまたんに連れられて常連になるほど通っていた。
熱々のおしぼりで手を拭いてから顔をごしごし拭くと、愛ちゃんはおばあちゃんからジョッキを受け取りごくごくと喉を鳴らす。
「かーっ、このために生きてる!」
「いや、おっさんかよ! 俺よりもおっさんだな!」
「……あ、魔王サタンだ」
「愛の女神がもう全力でおっさんじゃねえか! 愛を司る神々が、どれだけ気を使って生きているのか知らねえのか!?」
「そんなこと知ったこっちゃないわ。私は愛の女神! 私の愛は、おしぼりで顔を拭こうと、生ジョッキをぐいっとやろうと変わらないのよ!」
「きりっとした顔をして言われてもなぁ。まあいいや。思えば、お互いに存在を知っていながら、こうやって一緒に飲んだことはなかったな」
「そうね。一応、乾杯しておく?」
「しておくか」
ふたりでジョッキを掲げた。
「…………ん。あー、愛ちゃん、きたのか?」
うたた寝していたさまたんが目をこする。
「お疲れー!」
「あい、おつかれ。今日はサタンの奢りだから好きなだけ飲め」
「……動画で儲けてるだろうに。まあいいけど」
「やったー!」
愛ちゃんがビールを飲み干したタイミングで、芋焼酎の水割りが置かれた。
一緒に、焼き鳥と枝豆、肉じゃがも並べられていく。
「これこれ! 青森きたらおばあちゃんのお店で飲まないとね!」
「嬉しいこと言ってくれるねぇ。ゆっくりしていってね」
「はーい!」
愛ちゃんは、おばあちゃんに頭を撫でられてくすぐったそうにはにかんだ。
「……ん、そういえば、愛ちゃん……なんだっけ、皮脂の神って知ってる?」
うとうとしながらさまたんが先ほどサタンとした会話を思い出して愛ちゃんに尋ねようとするのだが、微妙に違う。
「皮脂じゃねえよ! 不死だよ!」
「なによ、あんたたち。居酒屋でそんなつまんない話していたの?」
「つまんないって、愛ちゃんの同僚だろうに」
「そう言われても、会ったことも見たこともないのよねぇ。私は新たな神々の中でも若いし、存在が結構あやふやだったからねぇ。そもそも十天だって、勝手に加えられただけだから。せっかく会合に行ってやったのに、ちゃんと集まってさえいねえし! もう二度と誘いになんか乗ってやらねえから!」
愛ちゃんとしては、十天という痛々しいメンバーに数えられていることが不本意だ。
しかも、協調性がない奴らばかりなのだから、もう関わるつもりはない。
「なるほどな。愛、みたいな概念が十天を名乗るなんて俗っぽいなとは思っていたが、勝手に数えられていただけか」
「そもそもつるむの嫌いなのよね。私と同じ考えの神はいっぱいいるわよ」
「そりゃそうだろうな。それで、結局、不死の神っているのか?」
「さあ? 月読命が夢中で追いかけているアイドルだと思っているけど」
「なんで!? さまたんもだけど、月読がアイドルの追いかけみたいな認識になっているのってどうして!?」
「そりゃ、よくわからないものを追いかけているからよ。アイドルだって、私たち一般人からしたら未知なる存在でしょうが」
「発想が愉快すぎだろ」
確かに見えないものを追いかけることは不毛である。
だが、月読は不死の神を「いる」と確信している節がある。
「ま、死の神がいるのだから、不死の神だっているんじゃない」
「いたらいろいろ不味いんだがなぁ」
「魔王のくせに、小さいこと言わないの!」
「……はぁ、もういいや。今日のサタンさんは真面目な話ができないって確信した。ところで、愛ちゃんのキープボトルって魔王である俺こそが飲むべきボトルじゃない? ちょっとちょうだいよ!」
「……あんたもっといいもの飲んでるでしょうに」
「いいじゃんいいじゃん」
「おばあちゃん、私と同じのをこのおっさんにも!」
「やったー!」
サタンと愛ちゃんが乾杯する。
――今日の青森も平和だった。