作品タイトル不明
88「雑魚に不死とか宝の持ち腐れじゃね?」①
七森康弘から、女性たちはホットケーキを食べた後にお風呂とサウナを楽しむと聞かされたので、千手も渋々ホットケーキを食べて「うめえな」と呟き、完食した。
「それにしても、あんたの奥さんは何がしたかったんだ?」
「水無月家当主とも話をしたんだが……私の妻久乃は、権力を使って自分が上に立ちたかったようだ」
「……あのおばさんらしいというか、なんというか」
「水無月俊平を匿ったのも、水無月家当主の夫を確保する意味合いがあったのだが、まさか金食い虫で役立たずとは思ってもいなかったようだ」
「誤算すぎるだろうな。俺だって、古くから続く水無月家の当主の婿が無能とか思わねえ」
「そういうことだ」
七森親子の話を聞き、夏樹は顎に手を当てて考える。
「つまり、俺は誰を斬ればいいの?」
「このおっさんを斬ってくれや。元凶だ」
「へい! 喜んで!」
「ちょ、ま、千ちゃんととらぴーの結婚式に出席するまで死ねんぞぉおおおおおおおおおお!」
「永遠にねえよ!」
「またまたぁ!」
「……千手さんのパピーは悪い人じゃない。俺にはわかる。だから斬らない!」
「由良ぁ! 斬っていいのになんで斬らねえ! 普段は躊躇わずに斬るくせに!」
「さすがに千手さんのパピーを千手さんの目の前で斬れないって」
「へ、変な気遣いしやがって」
いくら夏樹でも、息子の前で親を殺すことはできない。
それに、康弘を斬るべきではないとなんとなく感じていた。
「……千ちゃんの照れ屋さんめ。それで、久乃も引っ込みがつかなくなったようで、金を渡して好き勝手させていたようだが。まさか、死なない身体になっているとは思わなかったな。何が起きているのか」
「新たな神々か?」
「パパにもそこはわからん。新たな神々など正直、いるのかいないのかわからなかったのだ。個人的に、パパは古い人間なので新たな神々を神として崇めることはないだろう」
「そんなものか」
「そんなものだ」
大きな問題として、水無月俊平がいつどこで誰に力を与えられたのか、だ。
死なない身体を手に入れたところで、豚に真珠ではあるが、人間を超えた力であることは変わらない。
死なないことで水無月俊平が強気に出ていた可能性もある。
なんにせよ、面倒な能力であると千手と康弘は思う。
「うーん」
「どうした、由良?」
「俺的には、不死っていないと思うんだよねぇ。異世界の魔神だって、誰もが口を揃えて殺せないって言ったけど、ちゃんと死んだし?」
「そりゃ由良が強すぎるだけだろ」
「ううん、そうじゃなくてさ。真面目な話をすると、仮にだけど俺がサタンさんと戦ったとして、今の俺じゃ絶対に勝てないだろうけど、肉体的に全盛期になって、能力的にすべて使えるようになって、星槍さんの力を完全に使いこなせたら、なんとかなりそうな気がするんだけど……いや、ちょっと難しいかな。それでも、俺と戦ったことが原因になってサタンさんはいずれ死ぬだろうね。そのくらいの傷を負わせる自信はある」
「……むしろ、あのおっさんがそこまで強いことにびっくりだ。いや、魔王サタンだ。強いに決まっているんだが、普段の言動が気さくな主夫だからなぁ」
「……魔王サタンと出会えていることがしゅごぉ! 息子と息子の友達しゅごぉ!」
「やだなぁ、千手さん。サタンさんが弱いわけないじゃん! 今の俺じゃ、花子さんにも勝てないって」
「……マジか」
「雲海おばあちゃんにも勝てないなぁ」
「いや、あの婆さんには誰も勝てねえだろ」
「旧家の中でも、あのババア最強だからね? パパが当主になって水無月家に仕掛け始めた時に、会合で顔を合わせたら何も言わずに平手打ちされたから。パパ、その日はお部屋でシクシク泣いたからね!」
「クソ親父! さっきからちょいちょいうぜえんだよ!」
「パパも構ってよぉ!」
例えに出してみたが、夏樹が魔王サタンと戦う日が来ることはないだろう。
七つの大罪の魔族マモンとはいくつか制約がある状態で戦いながら勝てた。殺すこともできただろう。しかし、介入してきた魔族サマエルには勝てる想像ができない。
とはいえ、少し強くなればそれだけ視野が広がるので、いずれやりようはあるだろう。
ただ、やはりサマエルと戦う日はないと思う。
夏樹の「なんとなく」といった勘でしかないが、きっと当たる。
「――千手さん、千手パピー、少し後ろに」
親子のじゃれ合いを微笑ましく眺めていた夏樹が、空間が歪む感覚を察知した。
咄嗟にアイテムボックスの中に手を突っ込むも、すぐに何も持たずに引き抜く。
「なんだ、月読先生じゃん」
「急に失礼します。少しお話に来ました」