作品タイトル不明
87「トラウマって虎と馬の子供だと思うんじゃね?」
「――Prosím, odpusťte mi!」
由良夏樹は「許してください!」と叫びながら起き上がった。
「あ、あれ? 畳の良い香りがするお部屋で、お布団に寝ているだと?」
「なんで外国語で叫びながら起きるんだよ。由良、お前は何人だよ?」
「ギャラクシー河童星人ですけど、なにか?」
「きりって、すんな! きりって!」
隣の布団には、七森千手がいた。
布団の上で上半身を起こし、上着を脱いでサングラスを外している。
「俺たち、どうしたんだっけ? 宇宙から対ギャラクシー流の連中が戦艦に乗って現れて死闘を繰り広げたところまで覚えているんだけど」
「……お前、どこの異世界で冒険していたんだよ? 俺たちは、水無月都の暴れっぷりを見ていられなくて気絶したんだぞ」
「――っ、記憶が、ない。なんだか頭の中にモヤがかかっているようだよ。思い出そうとしても、頭痛が…‥」
「脳が全力で記憶を封じていやがる。……まあ、俺も忘れられるもんなら忘れたいけどな」
千手は身震いすると、股間を抑えた。
「結局どうなったの?」
「さあな。俺にもわからねえ。起きたばっかりなんだ」
「――ならばパパが説明しよう!」
すぱーんっ、と障子を開けて現れたのは、ホットケーキが重ねられた皿を載せたお盆を持つ和装の中年男性――七森康弘だった。
「あ、千手さんのパピーだ」
「イエス! 千ちゃんのパピーでーす!」
「なんでいるんだよ! パピーじゃねえよ! そのホットケーキはなんだよ!」
「澪ちゃんが焼いてくれたんだよ。都ちゃんが数日何も食べていなかった人みたいに泣きながら食べててドン引きしちゃったけど、姉妹愛ってことでよしとしておこう。これは、千ちゃんとなっちゃんの分だ」
「わーい!」
「おい、由良! こんな訳のわからないおっさんから食べ物をもらうな!」
「千ちゃんひどい! パパ、泣いちゃう!」
「いーけないんだ、いけないんだ! 月読先生に言っちゃおう!」
「うぜぇえええええええええええええええええええええ! うぜえのが増えた! うぜぇええええええええええええええええええええ!」
千手が髪をかきむしっている間に、康弘は夏樹にホットケーキの乗った皿を手渡す。
ナイフとフォークに、ナプキンを装備して夏樹は早速食べ始めた。
「いただきまーす! うまっ、うまい!」
「澪ちゃん、やるな。俺のライバルにしてやってもいいぜ」
「……なんでクソ親父が料理できるみたいなノリ出してんだよ!」
「え? あ、そうか。千ちゃんはすぐに家を出ちゃっていたから知らないみたいだけど、パパね、料理得意なの」
「……嘘つけ」
「本当本当、いつ毒殺されるかわからないから自分で料理作ってるのよ! それで料理にハマっちゃって、料理ブログやっていたんだけど……サーバー代を誰も払ってくれてなかったからブログ全部消えてた」
「悪かったよ!」
千手の魔眼によって停止していたため、康弘はブログの更新はもちろん、ブログの維持もできなかったのだ。
「書籍化の話もあったのに……」
「それはマジで悪かった」
さすがに千手も反省する。
「いや、そうじゃねえよ! とりあえず、水無月俊平がどうなったのかだけ教えてくれや」
「水無月俊平は、月読命様がお預かりになられた」
「……なぜだ?」
「聞けば、水無月俊平は不死のようだったらしいな。その真偽を確かめるため、また、力を与えた者を吐かせるためしばし貸し出された」
「あの脳内お花畑のおっさんもさすがに月読様に目をつけられるとは終わったな」
「違いない。水無月家としても、処分を決めていたところだったので、どうぞどうぞと引き渡したぞ」
「処分って、水無月家にしては珍しいな」
「殺す訳じゃないさ。記憶を消して、適当な記憶を植え付けて、一般人として放逐だ。霊能力者からすると一番残酷な刑だ。水無月俊平の親族が温情をかけてほしいと願ったようだが、澪ちゃんを他家に売る計画を立てていたことが明るみになったからな、雲海のババアと都ちゃんが激怒して結果は覆られなかったぞ」
「まるで見てきたように」
「見てきたというか、会議に参加していたんだがな」
「水無月家と敵対していた七森家の当主とは思えねえな!」
「和解したってことだ」
親子の会話が弾む中、
「ホットケーキごちそうさまでした! 最高だった!」
ひとり、無心にホットケーキを食べていた夏樹が満足して手を合わせた。