作品タイトル不明
84「怒らせたらいけない人っているんじゃね?」②
「み、都さん? なぜ、ここ、に?」
「――お姉ちゃんに対して悪しき感情を抱く輩の気配を察知したので飛んできました」
「しゅごい!」
かっ、と稲光が走り、都の顔を照らす。
彼女の顔には、「怒り」しかない。
「水無月家が欲しいならどうぞご勝手に。母が欲しいのなら、まあ、できるものならご自由に。――――しかし、お姉ちゃんに害を与えると言うのなら、殺す」
都から明確な殺意を感じた。
彼女の今の感情は、怒りと殺意だ。
都の手には一振りの剣が握られていた。
「異世界でお姉ちゃんと私のために存在していた剣と出会いました。名を、お姉ちゃんラブラブソード」
「………………」
ここで「ださっ」と言える勇気は誰にもなかった。
聞いたのは二度目だが、改名してなかったのか、とも言う勇気がなかった。
「この剣を手にした時、お姉ちゃんを守るための力であると理解していました。ですが、まさかこんなにも早くこの剣を振るうことになる日がくるとは思ってもいませんでしたね」
「あの、都さん、俺が言うのもなんだけど、落ち着」
「――黙れ」
「はい」
夏樹の勇気はもうなかった。
異世界で魔神と戦う時でさえ、こんなに恐怖感じなかった。
「失礼しました。つい、気が立っているので……」
都は剣を握りしめて水無月俊平に近づいていく。
「あのね、都。ちょっと落ち着きなさい。気持ちはわかるけど、茅ちゃんが連れて帰れっていっているんだから。ね?」
「黙りなさい」
「はい。すみません」
花子も都を止めようとしたが、圧のある眼光によって屈してしまった。
夏樹は一縷の希望を込めて千手に目だけ向けるが、彼は全力で首を横に振っている。
ツッコミの勇者であっても、都の相手はできないらしい。
(さすがに都さんに親を殺させるわけには……ここは勇気を振り絞って小粋なジョークで場を和ませるしかない!)
「夏樹くん。もし余計なことを言うのであれば、あなたがこっそりギャルが好きなことを言いふらします」
「いやぁああああああああああああああああああああああああ!?」
夏樹は絶叫し、崩れ落ちた。
「……まあ、知ってたんじゃが。割と黒ギャルの方に比率が高いのう」
「男の子ね、夏樹」
「思春期だもんな。悪くない趣味だと思うぜ」
「ダーリンは鬼娘が一番好きだけどな!」
「やめてぇえええええええええええええ! フォローはいらないのぉおおおおおおおおおおお! 都さん、言ってる! もう言ってる! 俺まだ何も言ってないのに!」
いくら都が怖くても、男の子には抗議しなければいけない時がある。
夏樹は必死に声を上げた。
「違います。あなたの趣味をネットで拡散します。もちろん、美脚好きで鼠蹊部が好きで、競泳水着が好きなこともすべて」
「いっそ殺して」
今度こそ夏樹は倒れた。
ネットで趣味嗜好が拡散されることも絶対に嫌だが、同級生の女子に性癖を把握されているのも心にくる。
「さあ、邪魔はいなくなりました。水無月俊平……どこでのうのうと暮らしていたのか知りませんし、興味もありませんが、お姉ちゃんを侮辱した罪はその命で償いなさい」
「ま、待て、都! 僕は――」
「お姉ちゃんに害するものは生存してはならないという法則があるのです! しねぇええええええええええええええええええええ! きえぇええええええええええええええええええええええええええ!」
怪鳥のような奇声を上げて、都は父親に斬りかかった。