作品タイトル不明
83「怒らせたらいけない人っているんじゃね?」①
「いっ、ぎっ、ぎぁぁああああああああああああああああああああああ!?」
太ももを撃たれた水無月俊平が絶叫をあげる。
「あー、うるさい!」
夏樹はもう一度拳銃の引き金を引いた。
反対側の足に発砲すると、さらに絶叫が上がる。
「ちょ、この中学生頭おかしいんじゃないの!?」
「取り押さえるんじゃ!」
「由良ぁ! 落ち着け! さすがにそれはまずい!」
「……人間こわぁ!」
花子と小梅に取り押さえられ、千手と虎童子に拳銃を取り上げられるが、夏樹は特に抵抗しない。
むしろ、不思議そうな顔をした。
「……あのー、剣で斬り殺すのはありで、拳銃で殺さない程度に痛めつけるのは駄目なんですか?」
「……………………」
小梅たちが沈黙する。
水無月俊平の痛みによる絶叫だけがビルの中に響き渡っている。
しばらくして、
「そうじゃな」
「そうね。なんで今更拳銃ひとつで」
「はい、返すから好きなだけ撃っちゃえよ!」
「いやいやいやいやいや! 納得するんじゃねえよ! 由良の言い分はわかるし、今更拳銃程度とは思うけどさ! あと、虎童子は拳銃を由良に渡すんじゃねえよ! めっ!」
千手が突っ込みながら拳銃を取り上げ、弾を抜く。
「……水無月俊平を庇いたくはねえんだが、こんな奴に何かするだけ無駄だ。放っておいても勝手に自滅する奴だからな、相手にするだけ時間がもったいない」
「そだね。んじゃ、とりあえず、ヒール」
淡い光が水無月俊平を包むと、彼の傷が消えて絶叫が止んだ。
「あ、あれ、痛くない? 僕の足が……治っている?」
「よし。じゃあ、次は剣で痛めつけるからね!」
「もうええんじゃい!」
「あいたー!」
再び攻撃を始めようとする夏樹の頭を小梅が引っ叩いて止めた。
その間に、千手と虎童子が頑丈そうな結束バンドで水無月俊平の手足を縛り拘束した。
「親切心で言ってやるが、これ以上何も余計なことを言うな、するな、いいな?」
いい含めるように千手が言うも、水無月俊平は納得ができないようで唾を飛ばして大声を出す。
「ふざけるな! 僕にこんなことをして済むと思っているのか!? 僕には七森家がついているんだぞ!」
「……千手さん?」
「待て、説明させてくれ」
さすがに夏樹もびっくりして視線を千手に向けた。
まさかここで七森家が関わっているとは思いもしなかったのだ。
「俺はノータッチだ。クソ親父が停止している間に、好き勝手やっていたおばさんがこのおっさんを保護したらしい」
「とりあえず、この人うるさいし、面倒臭いから殺しておかない?」
「だから、水無月家から生きたまま連れて来いって言われているんだよ!」
「ほらほら! 僕は茅お姉ちゃんに求められているんだ! 貴様たち、覚えておけよ! 僕が水無月家を手中に納めたら追い込んでやる! まともな生活ができると思うな!」
「ここまで言われても?」
「……気持ちはわかるが、我慢してくれ」
千手も内心は苛立っているのだろう。
夏樹を説得しながら、固く握りしめた拳を振るわせている。
「……この状況でよくもまあ大口を叩けるのう。大物か、よほどのバカじゃろう」
「きっと馬鹿ね。馬鹿の中の馬鹿よ」
「とらぴーも呆れちゃうぜ」
女性たちも、水無月俊平のどこからくるのかわからない自信と妄想に呆れている。
「みずちがいなくなれば、水無月家など怖くない! 僕が戻り次第、あの忌々しい土地神の血が混ざった混ざり物の小娘を殺して、いや、仮にも神の血を引くのだ。欲しい家は多いだろうな! ははははっ、みずちめ! 僕と茅お姉ちゃんを引き離した報いは、お前の娘に支払わせてやる!」
夏樹は、水無月俊平を殺すと決めた。
この男に何かができるとは思わないが、関わるだけで毒となる人間だと理解した。
優しい澪は、この男の言葉で心を痛めるだろう。
茅や雲海たちも同じだ。
水無月俊平を水無月家の人たちに会わせてはいけない。
そう決めた夏樹は早かった。
改めて魔剣を引き抜き、感情を込めて振り下ろ――そうとしてできなかった。
――突如、空が暗くなった。
――ざあざあ、と大雨が降り出す。
――雷鳴が響いた。
こつ、こつ、と靴の音が背後からする。
夏樹は、いや、夏樹たちは振り返ることができない。
恐怖で動くことができなかった。
――雷が鳴る。
――まるで空が怒り狂っているようだった。
はぁはぁ、といつの間にか呼吸が荒くなっている。
夏樹は勇者として備わった勇気を総動員して、背後を振り返る。
――彼女がいた。
まるで般若のごとく、怒りで顔を歪めた――水無月都が、そこにいたのだ。
「――――今、お姉ちゃんに何をするといいましたか?」