作品タイトル不明
82「常に自分語りする奴っているんじゃね?」
「僕と茅お姉ちゃんは、親戚関係とはいえ姉と弟のような関係だ」
「……急に語り出したんだけど! 怖い、怖いよ!」
胸に手を当てて、己の心中を語り出した水無月俊平に夏樹が怯む。
「当時の僕はか弱い少年で、水無月家の訓練はとても過酷だった。特に、雲海のババアは鬼だ。地獄から這い出てきた鬼の中の鬼だ! みんなができたことができない僕に、できるまで頑張れと……まるで給食が食べられない小学生の気分だったよ!」
「たとえが、わかりやすいような、わかりにくような?」
「くぉら、雲海おばあちゃんの悪口言ってんじゃねえぞ、潰すぞ! ああん!?」
自分語りを始めた水無月俊平が、途中で雲海の悪口を入れたので花子がキレる。
過去の雲海がどんな人物だったかわからないが、花子にとっては雲海は良きおばあちゃんなのだ。
昨日も澪と一緒に肩を揉んだ。
「みんなが僕のことを馬鹿にする中、茅お姉ちゃんだけが僕のことを応援してくれた。身分違いの恋をしてしまったけど、茅お姉ちゃんの結婚相手に選ばれた時に、運命だと思った。夜空にひとりぼっちの星だった僕が、茅お姉ちゃんという大宇宙に受け入れられた瞬間だった」
「……すみません、後半がちょっとちょっとわからないんですけど」
「おい、やめてやれ、由良。あのおっさん、途中でポエム挟んでいるだけだから聞きながしておけ。雑音だと思え」
「……ポエムだったんだ。自分のことひとりぼっちの星とか言っちゃう大人って、なんか嫌だなぁ」
「あんな大人ばかりじゃねえから!」
どのような人生経験をすれば、自分を星だと例えることができるのだろうか。
「とりあえず、都さんのパピーが星なら、星を砕くことを趣味にしている星子さんを呼んでこないと」
「別にあのおっさんが星ってわけじゃねえから! じゃあなんで星を自称しているのかってツッコミはやめろよ。ポエムってる奴は、意味なんて考えてねえんだよ!」
「大人って大変だなぁ」
「なんか違うが、もう面倒臭い! それでいいよ!」
「ダーリンが諦めたら誰がツッコむの!?」
「虎童子ぃ! 俺はツッコミ専門じゃねえから!」
夏樹たちの声が聞こえていないのか、水無月俊平は自分語りを止めない。
「だけど、僕はショックだった。まさか、みずちとの間に子供を作るなんて。パートナーを見つけたはずの星は、砕けて流れ星になってしまったんだ」
「えっと、その意味は」
「だから、聞くな!」
「僕は流れ星のごとく水無月家を去った。最初はね、我慢したんだよ。茅お姉ちゃんもみずちに無理やりって、でもね、茅お姉ちゃんと僕との時間さえ邪魔するんだ、あの堕ちた土地神が!」
「……茅さん的には、あんたの方が」
「しーっ、余計なこと言わないの!」
夏樹でさえ、水無月茅がみずちを心から愛していたことを知っている。
おそらく水無月俊平は、自分本位でしかものを考えないのだろうと理解した。
「はい!」
「何かな、これからいいところになるんだけど」
「話が長いから、ちゃちゃっと結論を言ってください! あんた結局何がしたいの?」
「……これだからゆとり世代は。動画ばかり見ているから集中力がないんだよ!」
「あんたは逆に話が長いんだよ!」
「まったく、中学生にムキになっても仕方がない。いいかい、よく聞きたまえ。僕はね、水無月家を取り戻す」
「いや、あんたのじゃねーだろ」
「茅お姉ちゃんが僕のためにみずちから解放されたのに」
「倒したの俺ね」
「王子様である僕が迎えに行かないのはおかしな話だ」
「星じゃねえのかよ」
「一度迎えに行ったけど、男を年収でしか見ていないような女に殴られてしまってね」
「……花子さんじゃね?」
「そうよ! 私よ! 今は違うから! ていうか、どんなふうに見えてるの、私!?」
「なら! 今度は人を雇って、襲撃してやる! 茅お姉ちゃんを奪って、僕とラブラブな生活をするんだ!」
「……怖いなぁ、このおっさん。ていうか、いいおっさんがお姉ちゃんって連呼しているのがなかなかの悪夢」
「さっきからうるさいんだよぉおおおおおおおおおおおおおおお!」
一言セリフを言う度に突っ込まれ続けた水無月俊平はまた激昂し、拳銃を夏樹に向けた。
どうやら拳銃が通用しないことを忘れているらしい。
夏樹は、目にも留まらぬ速さで拳銃を奪うと、特に何も考えずに水無月俊平の太ももを撃った。