作品タイトル不明
78「七森家と水無月家の当主のお話じゃね?」①
七森康弘は、向島市の水無月家を訪ねていた。
「お久しぶりです。七森康弘殿」
「こちらこそ、お久しぶりですな。水無月茅殿」
水無月家当主とふたりだけで、話をしたいと突然の訪問に茅は応じた。
「まずは、連絡もなく訪問したことを謝罪する。しかし、急だったのでお許しいただきたい」
「構いません」
「その前に、他にも謝罪をしておこう。今まで七森家は、いや、私は水無月家を敵視し攻撃をしていたが、申し訳なかった。二度としないことを誓おう」
「――星雲相談役からもお聞きしましたが、突然の心変わりの理由をお聞きしても」
茅の警戒は康弘も理解できた。
七森家と水無月家は明確に敵であるのだ。
「恥ずかしい話だが、私は千ちゃ……息子の千手によって数年間、停止されていた」
「停止の魔眼、でしたね。……あの、今、千ちゃんって言おうとしませんでしたか?」
「してないよぉ?」
「……そうでしたか、失礼しました」
「ごほん。目覚めれば、平成から令和になり、ちょっとした浦島太郎の気分だった。……乙姫様ってなんであんな酷いことしたんだろうねぇ?」
「私が知るわけがないでしょう。いえ、そうではなく、ちょっとちょっとキャラ違ってません?」
「そんなことないってばぁ」
「…………」
「時間の流れというのは良くも悪くも人を変える。私は、止まっていたが、時間は流れた。ならば、いつ変わる、今でしょう! と、思ってね」
「……そんな突発的に変わられて、水無月家と敵対しないと言われても困るのですが」
茅は明らかに動揺を見せていた。
康弘も、内心困っている。
(さすがにトイレで停止が解除されたと同時に、悪意と一緒になにもかもが出ちゃったとは言えないし。康弘くん困っちゃう!)
「まあ、私のことはいい。問題は、私が役立たずの間に、妻の久乃がやりたい放題だった件だ。すでに、伝わっていると思うが、茅殿の元夫をお預かりしていたようだ」
「はい。お聞きしています。不躾な質問で恐縮ですが、奥様とあの男は……」
「男女の関係ではないとはっきり言っておこう。もっとも、お互いに、あのふたりが不倫してようが気にもしないだろうがね」
「そうですね。しかし、そういう関係でないのであれば、なぜ匿っていたのか疑問なのですが」
茅の疑問がわかると同時に、水無月家の中と外では物の見方が違うことを確信する。
「これは、よくあることなのだがね」
そう前置きをして、康弘は続けた。
「水無月俊平は世間的に見れば、水無月家当主の夫だ。利用価値は高く見える」
「……しかし」
「わかっている。水無月家からすれば、言い方は悪いが使えない無能だ。だが、あなた方も水無月俊平を無能だと吹聴しないだろう?」
「するメリットがありませんので」
「だから、私の妻は勘違いをした」
「――まさか」
茅は、はっとする。
「そのまさかだ。久乃は、水無月俊平を利用価値がある人間、もしくはできる人間と考え匿ったのだが、利用価値など皆無で、ただの金食い虫だった」
「……なんだかすみません」
「いや、こちらこそ申し訳ない。余計なことをしたせいで、水無月家が面倒なことになったな。ただ、まだはっきりわかっていないのだが、水無月俊平に七森家とは違う家が接触していたようだ」
「――っ」
「いくら土地神みずちがいなくなったとしても、急に動き出したことはおかしいと思い少し調べさせている。幸い、ちょうどよく仕事ができてイケメンで可愛い婚約者がいてきっと可愛い子供も生まれる予定のきっと父親に似てイケメンな霊能力者が水無月俊平のもとに潜入してくれた。なんらかの情報を掴んでくれると、パパは信じている」
「……え? パパ?」
「気のせい気のせい」
「……いえ、ですが」
「問題は、なぜ、今、水無月家にちょっかいを出そうという家が出てきたのか。それが不思議でならない」