作品タイトル不明
69「屋上って割と立ち入り禁止だよね?」②
「……どうしたの、杏さん? そんな急にツッコミキャラになっちゃって。――っ、まさか千手さんからツッコミキャラの座を奪おうとしている!?」
「杏、そう言うキャラ目指してないもん!」
杏は否定するが、なかなかのツッコミだった。
きっと千手さんがいれば、「いいツッコミじゃねえか」と親指を立ててくれるはずだ。
「なんにせよ、レベルアップにはまだまだ不思議がいっぱいだね。何か気づいたことがあったら、情報交換ってことで」
「了解!」
「うん!」
「じゃあ、食後のアイスでも食べようかな」
夏樹はアイテムボックスからアイスを取り出す。
アイテムボックスの利点は入れた時のまま出せることだ。
つまり食材は腐らず、アイスも溶けない。
「ちょっと夏樹くん!?」
一登が大きな声を出した。
見た目はチャラいが根っこは真面目な一登は夏樹を叱ると思いきや。
「ずるいよ! 俺もほしい!」
「杏も!」
「はいはい。しょうがないなぁ!」
そう言って、一登と杏にもアイスを取り出し渡す。
「やったー!」
「わーい!」
「実は、ドーナツもあるんだぜ?」
「――っ」
「――っ」
一登と杏は絶句する。
異世界で無双した勇者の力は、それほどなのか、と。
「…………あなたたち、やりたい放題ですね」
呆れた声が響いた。
「あ、月読先生だ!」
もう今更、音もなく現れる月読に驚くことはない。
「……お菓子を食べるくらいならとやかくいいませんが、アイスにドーナッツはさすがにいかがなものかと」
「そんな月詠先生には、なんかよくわからないけどコーヒーのアイスみたいな飲み物にクリームとかチョコソースを増し増しにしたのをどうぞ」
「…………いただきます」
アイテムボックスから、コーヒーチェーン店の飲み物を手渡すと月読は文句を言わず受け取った。
一登と杏が「あ、受け取るんだ」と思ったのは言うまでもない。
「ごほん。ところで、一登くん、杏さん、学校ではどうですか?」
「えっと、特に何かを言われることはないですし、みんな良くしてくれています」
「そうですか、それはよかった」
「杏は……良くも悪くも距離がありますけど、何か嫌なことされているわけじゃないので、自分で頑張ります。変わったんだって、見てもらいます」
「……いい子ですね、杏さん。頑張ってください。ですが、いつでも頼ってくださいね」
「はい」
杏に対して、月読は良い印象を持っていなかった。
だが、こうして反省し、前を向く生徒にいつまでも以前の感情を引っ張ることはしない。
杏が努力してクラスメイトとの関係を再構築しようとするのなら、見守ろう。必要なら力にもなろう。
「夏樹くんは……いえ、別に特に何もありません」
「いやいや、聞いてくださいよ! 俺が学校にくると珍獣みたいな目でクラスメイトたちが見てくるんですよ! しかも登校するかサボるかで賭けまでされて! これっていけないことだと思います!」
「……サボり癖があるのも原因では?」
「なっちゃん、学校だいちゅき!」
「……まあいいです。今日は、少し注意喚起をするために声をかけました」
表情を引き締めた月読に夏樹たちが背筋を伸ばした。
「杏さんには少しわかりにくいかもしれませんが……水無月家にトラブルの予感です」
「……花子さんが何かやらかしたんですか!?」
「いえ、違いますよ。水無月俊平、つまり水無月都さんの父親が向島市に戻ってきました」
「……都さんのパパ? あー、そういえば、みずちさんの子供は澪さんだけだっけ。いたんだね」
「長い間失踪していましたし、離婚し、絶縁されているようですが、なぜか急に帰ってきたそうです」
「えっと、それで? 俺にその話をするってことは、人知れず始末しろってことですね?」
にぃ、と夏樹が唇を釣り上げた。
「違いますよ!? なぜ私が生徒に殺しを命ずるみたいな感じになっているんですか!? そうではなく、君たちは何かと巻き込まれやすいので、気をつけてください! と、いいたかったのですけど!」
「先生、それって」
「もうフラグな気がするよぉ」
一登と杏は、絶対に巻き込まれる、と確信した。