作品タイトル不明
66「ガチで心配されてね?」
「はぁっ、はぁっ、はぁ……すっごく怖かった。出ちゃうかと思った!」
ベッドの上で汗をびっしょりかいて夏樹は荒い呼吸を繰り返していた。
とても怖く、悲しい夢だった。
水の感覚と、足を掴まれた痛みがあまりにも鮮明すぎて、現実だったのではないかと思ってしまうほどだ。
「まさか、ね」
恐る恐る布団をめくって足首を見ると、そこには手形のアザがくっきりとついていた。
「…………」
もう悲鳴すら上げられなかった。
夏樹は、初めて恐怖で気絶した。
――由良夏樹のレベルが
薄れゆく意識の中で、「最後まで聞かせて!」と思った。
■
「サタンさんさ、真面目に夏樹のことが心配なんだよ。なんか毎朝叫んでるじゃん。異世界で過酷な経験をしたトラウマか何かで心が疲れているじゃないかなってサタンさん思うの。一度、病院いかない?」
「……いえ、あの、朝からうるさくてごめんなさい」
「それはいいんだよ。魔界なんて朝から怪鳥が快調に叫んでるし。サタンさんが心配なのは夏樹の方なんだって。最近、レベルアップ? みたいな声も聞こえているみたいだし、幻聴だろう?」
「そういうわけじゃ」
「心配するな、サタンさんがついている。幸い、三郎が医者だから真面目に話をしておくからね。守秘義務あるから、春子さんに伝わることもないだろうし」
「……いや、だから」
布団の上に正座して、心から心配の眼差しを向けるサタンに夏樹は言葉がない。
確かに、叫ぶし、変な声も聞いているが、病院に行くほどではないと信じている。
レベルアップは一登も杏も聞こえているし、夏樹だけじゃない。
今日の夢は、さすがにホラーすぎて自分の心がちょっと心配になってしまったけど、大丈夫なはずだ。
「サタンさんさ、紀元前から生きているから色々な人間を見てきたけど、限界って自分じゃ気づかないんだよ。気づいた時には限界を超えているんだよ。だから、な?」
「ふ」
「ふ?」
「ふぇーん、サタンさんが僕のこと誤解してるぅぅううううううううう!」
心配されているのはわかる。
だけど、そうじゃないんだ。
夏樹は、逃げ出した。
「あ、こら! 夏樹! 逃げるな! 逃げるな! 真面目に話をするんだ! 逃げるなぁ!」
■
夏樹は河川敷でしくしく泣いていた。
夏樹を挟むように、河童さんが左右に座り慰めてくれている。
「……なっちゃん泣かないもん! 河童大神様が見ているから、平気だもん!」
河童さんが「うわぁ」と言っているが気にしない。
レベルアップもするし、河童大神様もいる。
間違いないのだ。
「あなたは河童に挟まれて何をしているんですか?」
「うん? あ、いつるさん」
声をかけられて振り向くと、ランニング中なのか軽く汗をかいたいつる・ディロン・マルセー・ロットロット・ナイジェルマリー・赤星がいた。
「おはようございます。朝から変な顔をしていますね」
「……おはようございます。変な顔って」
「今のあなたからはギャラクシーを感じません」
「――っ」
河童さんがいつるを「何言ってんだこいつ?」みたいな目で見た。
「何があったか知りませんが、君は君らしく元気を出しなさい。それがギャラクシーのお導きなのですから」
「――ギャラクシー」
「そう、ギャラクシーです」
河童さんたちが、「え? やばくね? やばいよね?」とそわそわし始める。
「何か悩みがあるのなら言ってごらんなさい。まだ教えていませんがギャラクシー流の師匠として君のことは気にかけています」
「――いつるさん」
夏樹は勇気を出して、いつるに悩みを打ち明けてみることにした。
「実は、俺……レベルアップしているみたいなんです」
「――っ、まさかあなたは」
いつるが持っていたペットボルを落とした。
「いつるさん? 何その反応!?」
「君は、もうすでにギャラクシー流の新たなステージに立っているというのですか!?」
「あれ? レベルアップってギャラクシー流案件だったの!?」
河童さんたちが「んなもんねーよ」と肩をすくめた。