作品タイトル不明
65「ホラー展開は勘弁してほしくね?」
――夜。
夏樹は部屋でもにゃもにゃと眠っていた。
床には布団を敷いたサタンがむにゃむにゃと眠っている。
いつの間にか、ふたりで眠ることが当たり前になった。
時には、ここに一登も加わり、寝る前の恋バナ、枕投げとちょっとした修学旅行気分を味わっていた。
新たな由良家の住人になった星子と菜々子は、ふたりで一部屋を与えられた。
最初こそ、夏樹と一緒がいいと言ったふたりだったが、もれなくサタンがついてくることを知ると「あ、いいです」と意見をくるっと変えた。
サタンがちょっとだけ泣いちゃったのは内緒だ。
もうすぐ五月になるため、夜も少し暑さを覚えるようになった。
寝苦しいまでは行かずとも、もう毛布をかけることはなく、上下長袖のジャージから上着を一枚脱いで半袖となった。
サタンからお揃いのシルクのパジャマを着ようと誘われているが、それはまた今度。
中学生にシルクはまだ早い。
夏樹は眠る。
体力と魔力を回復させるために、ゆっくりと眠る。
それでも、長年、異世界で殺伐とした日々を送っていたことから、警戒もしていた。
今、夏樹を襲っても問題なく対処されるだろう。
そういう意味では、夏樹が本当の意味で心身ともに休んだ日は帰還してからないとも言える。
――そんな夏樹は、夢の中でリアルな体験をしていた。
「……なんだ、ここ?」
真っ暗な海にいた。
月も星もない、ただ暗い海だ。
ざあざあ、と波の音が耳に届くがどこか寂しい。
足首より下に触れる波は冷たい。
「……海の夢って……現実で漏らしてないよね? 大丈夫だよね?」
水の夢は少し怖い。
寝る前にトイレはしっかり行ったが、晩酌をした小梅たちに釣られて麦茶をたくさん飲んだ記憶がある。
まさか、と思い股を触るが、とりあえず今は濡れていない。現実でも濡れていないことを祈ろう。
「しっかし、なんでまたこんな寂しい夢をみているんだか。どうせなら河童大神様とのコンタクトとか他に大事なことがあるでしょうに!」
文句を言ってみても、反応がない。
何もない。
もしかして、ただの夢を見ているだけなのかもしれない。
「困るんですよねぇ、こういう変にリアルな夢って。たまーに見るけど、寝た気がしないっていうか」
不意に遠くから声が聞こえた気がした。
「――っ」
振り返るが、誰もいない。
耳を澄ませても、今は何も聞こえない。
「気のせい、かな?」
夢の中のため、魔力が使えない。
そもそも、夢の中で力がどうこうできるかどうかもわからない。
―――――――。
また声が聞こえた。
先ほどよりも、ちゃんと聞こえた。
だが、遠い。
どこから聞こえているのか、何を言ったのかわからない。
「どうしたのよ?」
何か、訴えたいことがあるのか。
それとも、ただ意味のない夢を見ているだけなのか、夏樹には判断できない。
また声が聞こえた。
「…………」
口を噤み、息を殺す。
どこからともなく聞こえる声を逃すまいと、夏樹は耳を澄ませた。
――刹那、夏樹の足を誰かが力強く掴んだ。
「――――なぜ、私を使わないんだ!?」
「ぎゃぁあああああああああああああああああああああああ! ホラーだったぁああああああああああああああああああ!」
夏樹の足を掴んだのは、長い髪を濡らし表情が一切見えない女性だった。
「I'm scared!」
「Das ist sehr unheimlich!」
「Ho paura!」
「É tão assustador!」
あまりにも怖かった夏樹は、何度も怖いと叫んだ。