作品タイトル不明
32「その可能性はなくね?」
シャワーを浴びて夏樹の洋服に着替えた一登は、由良家の茶の間で丸テーブルの前で正座していた。
夏樹、銀子、小梅と順々に座っている。
アルフォンスは、「俺のせいで巻き込んじまってすまない。積もる話もあるだろうから、俺はお風呂を借りるぜ」と気を遣ってくれて現在お風呂中だ。
とりあえずアルフォンスは全快しているようで、夏樹たちは一安心だった。
「――そっか。夏樹くんは異世界の聖剣に選ばれた勇者で、でも自前でも勇者で、異世界でクソみたいな日々を送って魔王をぶっ飛ばして、魔神をぶっ殺して、帰還したってことでオッケー?」
「オッケー!」
「それで、クソ兄貴にも眠っているけど力があって、その力のおまけで魅了があった。ただ、女の子の自業自得な面もあり、と。でも、そろそろ鬱陶しいから力を封じたんだけど、その関係でクソ兄貴のクソ兄貴が役立たずになったってこと?」
「イエス!」
「それで、そちらの綺麗なお姉さんが刑事さんで霊能力持っている。こちらのめちゃくちゃ美人さんが天使で、しかもルシファー! あと、いないけどグレイもいる。あれ? 最後だけファンタジーじゃないよね? あれ? 違うよね?」
一通り話をしてみたが、受け入れる受け入れない以前に一登は混乱している。
ファンタジーな日常がすぐそばにあったことももちろんだが、夏樹が異世界に勇者として召喚されて帰還したことや、兄優斗も似たような力を持っていてそれが魅了であること、兄の異変に夏樹が関わっていること、目の前に天使がいること、そしてファンタジーの中に宇宙人がひょっこりいるのだ無理もない。
「あれ? 今、私のこと美人って言ってくれたっすよね? でも、小梅さんはめちゃくちゃ美人って……おかしいっすね、私にめちゃくちゃつけ忘れていませんか?」
「どんまいじゃ、銀子。思春期のボーイは正直なんじゃよ」
「……ま、まあ、若い子は見た目に印象を左右されちゃいますからね。小梅さんはスレンダーで足なげーし、八頭身ですし、髪とかツヤツヤだし……あれ? おかしいっすね。比べていたら、なんか視界がぶれるっす」
下手に関わると大変なことになりそうなので、銀子と小梅のやりとりは無視することにした。
「と、とにかく、ファンタジー世界に夏樹くんが巻き込まれて覚醒して、無双して帰還したんだけど、地球も意外にファンタジーだったってことだよね」
「そうそう! それでいいのそれそれ!」
「なるほどー。なんだか、すっきりしたかな。クソ兄貴が無自覚ファンタジーってことは、あのクソ兄貴が普通じゃないってことだよね? あー、納得できる。よかった。ああ、よかった」
「そっちで納得なんだね。ま、まあ、気持ちはわかるけどさ」
「あれ? でもクソ兄貴の力とかを封じたってことは――ああ、だから兄貴は女の子と誰も連絡取れないとかキレているんだ」
「キレてるの?」
「朝からうるさいんだよね。昨晩は、勃たない、なんでだよぉ! とか叫んでたし」
ぶっ、と夏樹、銀子、小梅がそろって吹き出した。
「ってことはさ、今までの反動ってくるんじゃないかな?」
「可能性はあるよね」
「本当ならざまーって叫んでやりたいんだけど、もうどうでもいいって言うか、なんというか。もうあのクソ兄貴のせいで迷惑かけられなくて済むって思うだけでほっとするよ」
「待ってほしいっす!」
優斗に今後迷惑をかけられなくて済む、と安心した一登に銀子が待ったをかけた。
「えっと、青山銀子さんでしたよね?」
「青山銀子っす。いやいや、私の名前なんてどうでもいいっすよ! 私ね、ちょっと考えていたんですけど」
「え、ええ」
「一登くんのお兄さんって、不能になっちゃったみたいっすけど、別段快感は得ることはできるっすよね。快感が激痛とかないっすよね?」
ちらり、と夏樹に視線が集まる。
夏樹はしばらく考えて、「さあ?」と首を傾げた。
「つーか、それがなんじゃと言うんじゃ」
「……可能性のお話なんすけど、前でできないなら後ろでするっていう選択肢があるっすよ。夜な夜な女装した少年がおっさんとパパ活した結果調教されてとんでもないことに――って、ありえるでしょう?」
「「「ねーよ!」」」
「あれ? お、おかしいっすね。照子ちゃんと一緒に先日こんな話題で盛り上がったんっすけど」
おっかしいなー、と銀子は首を傾げるのだった。