軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

31「出向じゃね?」

向島市。

向島市警察署署長室。

「――は? 今、なんて言いましたか?」

青山銀子は、父青山久志の言葉を聞き返した。

青山久志は、警察署署長であると同時に、霊能関係の事件を取り扱う『特別災害課』の責任者でもある。

銀子は久志の娘であり、警察官であり、霊能力者だ。

もちろん、仕事中は親子である前に上司と部下である。

そんな上司の言葉に、銀子は耳を疑い、間の抜けた顔をしていた。

「では、もう一度言おう。――由良家への出向を命ずる!」

「……なぜっすか? まさかとは思うっすけど、春子さんを守れとか言うのなら、叩き切りますけど?」

「甘いな。春子さんはすでに守っている!」

「このストーカー親父めっ! ならなぜ、由良家へ出向なんて馬鹿みたいなことを言っているっすか!」

久志は大きく深呼吸すると、疲れたように吐き出した。

「夏樹がこっち側だとわかってから俺は忙しい!」

「……はぁ」

「夏樹が悪くないのはわかっている。いい子だ! それは間違いない! だが、なぜ一日で水無月家と接触し、グレイと邂逅し、霊能力者と、天使と戦ってビルを破壊するんだ!? 夏休み最終日だってここまでのイベントないだろ!」

「まあ……そうっすよね」

改めて聞くと怖い。

しかも、今ではそのグレイと天使が一緒に生活しているのだ。きっと本人たちでも予想できなかっただろう。

「神殺しまでして、俺と水無月家が情報を止めていたとしても、どこからか漏れることは間違いない。いいか、神や魔をどうこうしたい人間っていうのはいるんだ。夏樹が自分の意志で関わると決めたのならまだしも、こちらから面倒ごとに関わらせるのは最大限阻止すべきだ」

「そうっすね。大人である私たちが盾になってあげないとっすよね」

「……戦う度に、ビルや山を破壊されても困る」

「……ですよねー」

火力特化型の異世界の勇者様は、破壊神のごとく戦えば壊していく。

ビルも、水無月家の山も、手加減しているにも関わらず大きな被害を出している。

これで夏樹が全力ではなく、もっと言うと全盛期でもないことが恐ろしい。

「俺にはわかる。春子さんの息子なら、これから絶対イベントに困らねぇ」

「イベントとか言わないでほしいっすけど」

「高校生の頃の春子さんなんて、毎日がイベントだ。正直、小学生の一日よりも高校時代の一日の方が体感的に長かったぞ! 途中で、早く一日終わらないかなーなんて思ったこともあるからな!」

「春子さんがやべーというのはわかったっす」

「春子さんに青春を捧げた俺が言うんだ、間違いない。夏樹はやらかすか、巻き込まれる。そう遠くないうちに普通に生きていたら関わらないような上位な存在と邂逅するだろう!」

「……するかもしれない、ではなくて、するだろう、と言っちゃうんすね。それで、どうしろと?」

「夏樹を守ってほしい」

久志は、まっすぐ娘の目を見て告げる。

「夏樹は強い。強いがまだ子供だ。いくら異世界で殺伐とした日々を過ごそうが、俺たちにとっては中学生の男の子だ。本当なら俺が守ってやりたいが、力もなけりゃ、立場的にも動きづらい。できることは、起こってしまった後始末くらいだ」

「……お父さん」

「なら、お前が一緒にいてくれると……公私混同になってしまうが、心強い。あと、一緒に巻き込まれて俺のように苦労してほしい」

「最後本音ぇ!」

「冗談だ。真面目な話をすると、なにかあったときに連絡が欲しい。監視とは言わないが、大人が見守ってやってくれ」

「わかったっす。夏樹くんはいい子ですし、小梅さんとも仲良くできていますし、春子さんのご飯がうめーし、出向は了解したっす」

久志は内通者みたいなことを頼むので嫌がるかと思っていたが、銀子的には夏樹の許可をもらってから報告するつもりなので問題がない。

両者揃って、夏樹のためにという前提があるので、お互いに深読みも心配もしていない。

「あと、これを持っていけ」

「なんすか、このタッパーは?」

「春子さんのご飯を詰めてこい!」

「ぶっ飛ばしますよ!」

やはり父は父だった、と銀子は肩を竦めた。

父と挨拶し、同僚たちに菓子を渡してしばらく空けることを報告する。

そして帰路に就くため車に乗ると、

「よっしゃー! 夏樹くんさえなんもしなければ、毎日のんびりっす! っしゃぁー!」

銀子はいくら夏樹が異世界帰りの勇者であっても、そうそう問題は起こさないだろうと思っていた。

水無月家という後ろ盾ができたのだ、霊能関係で突っかかる者もいないはずだ、と。

甘い考えの銀子ではあるが、まさかすぐに魔界からルシフェルとサタンが現れるとは思いもしなかった。

そして、一緒に飯食って酒を飲むとも、夢にも思わなかった。