軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

30「巻き込まれたんじゃね?」②

「ちょちょちょちょ、なーんでさっき笑顔で帰って行った人が死にかけているんだよ! 小梅ちゃん、銀子さん! ちょっと来て! 一登、とりあえずお前も家の中に」

「う、うん」

「誰かに後をつけられて……は、いないみたいだね。よし。さあ、早く入って!」

血と水に濡れたアルフォンスを担ぎ、夏樹は家の中に入る。

夏樹の限界まで探知を広げてみるが、アルフォンスと一登をつけているような者はいない。

「おいおい、なにがあったんじゃ!? いくらアルフォンスが弱くてもミカエルの息子じゃぞ!」

「……うわぁ、お腹ぐっちゃぐっちゃっすね。回復術を使うことができないっすけど、応急処置なら。あ、水無月家に誰か派遣してもらうのはどうっすか!?」

銀子の指摘通り、アルフォンスの腹部は酷かった。

腹部は抉られ、臓器が見えている。赤黒い血は止まらず、衣服はもちろん横たわる玄関の廊下を赤く染めていた。

とにかく出血が多い。

天使でも出血多量の危険性は人間と変わらないようで、風呂場からタオルを一登に持って来させて腹部に当てる。

一登もアルフォンスを抱えてきたせいか、服が真っ赤になっている。外傷はないようだが、混乱しているのは見てとれた。本当なら、夏樹たちに何が起きているのか問い質したいだろうが、緊急事態ゆえに我慢してくれている。

「……夏樹、悪い」

「アルフォンスさん! 何があったんですか?」

「襲撃、された……」

「魔族に?」

夏樹の疑問にアルフォンスは力なく首を横に振って否定する。

「俺を、襲ったのは、人間だ」

「……なんだって?」

「ありえない、魔力と、身体能力、だった。気を、つけろ」

夏樹は回復魔法をかけるも、傷が深すぎる。

夏樹の回復魔法はかなり規格外なのだが、いくつか条件があり、最も有効的に効果がでるのが『自分自身』だ。

簡単な傷や、腕一本を繋げるくらいならできるが、腹部を抉り取られ内臓まで損傷しているとなると時間が必要だった。

せめて異世界でのように全盛期の力があれば、力任せの回復魔法でなんとかなったかもしれない。

「……三姉妹と、いちゃいちゃしている写真をSNSにアップして……ドヤ顔したかった」

「まさかの三姉妹ハーレムだったの!? あと、下手したらそれが最期の言葉になったらどうすんの!?」

ふ、と夏樹は思い出した。

小梅の失った翼を回復させたのは、他ならぬ夏樹自身だ。

そして、その手段はすぐ用意できるのだ。

混乱しすぎて、すぐに思い出せなかった。

夏樹は手刀で手首を浅く斬ると、滴り落ちる血をアルフォンスに飲ませ、続いて腹部に垂らしていく。

「……俺は、吸血鬼じゃ」

吸血鬼ではないと言おうとしたアルフォンスに変化が訪れた。

どくんっ、と彼の身体が脈打つと、彼は血走った目を見開いた。

次の瞬間、アルフォンスの腹部が血煙を上げて修復していく。

「……なんだ、よ、これ?」

唖然としている一登を他所に、アルフォンスの傷は全て治った。

呼吸を乱したアルフォンスが、自分の腹に手を当て、傷がないことを確認すると、あることに気づいたようで夏樹に驚いた視線を向けた。

「夏樹……お前、完全なる血統だったのか?」

「そうみたい」

「……マジか。いや、それはいい。とにかく助かった。ありがとう」

身体を起こし深々と頭を下げたアルフォンスに、夏樹は「いえいえ」と返す。

それよりも、天使を倒すほどの人間がいることに驚きだった。

だが、もっと重要なことがある。

「えっと、夏樹くん? なにこれ、めちゃくちゃファンタジーみたいなことが起きた気がするんだけど、説明ってしてもらえるの?」

困惑を隠せない一登に、夏樹は銀子と小梅、そしてアルフォンスと目配せをすると、誤魔化しきれないと観念した。

「とりあえずシャワーと着替えをしよう? 昼飯食いながら説明するよ」

できることなら一登はこっち側に巻き込みたくなかったが、こうなってしまった以上、すべて話すことに決めた。

しかし、夏樹は内心ほっとしてもいた。

一番の友人であり、弟のような存在に、隠し事をしなくてよくなったからだ。

願わくは、すべてを知った一登が離れていきませんように、と祈るのだった。