作品タイトル不明
29「巻き込まれたんじゃね?」①
「……ようやく家の中が静かになった」
アルフォンスが神界に帰ると言ったことをきっかけに、ルシフェルも魔界に帰ると言い出し、「俺は帰らないぞ!」と居座る気満々だったサタンを引きずって帰っていった。
ふう、と一息ついて、お茶を飲む。
台所の机には、アルフォンスがせっかくだからと作っておいてくれたパスタソースが良い匂いをさせていた。昼食はパスタを茹でてフライパンでひき肉多めのトマトソースとさっと絡めれば出来上がりだ。
お昼にはジャックとナンシーも戻ってくるというので、楽しみだ。
「あ、一登からメッセージが入ってる」
一登から送られてきたメッセージは、昼飯でも食べに行かないか、というものだった。
思い返せば、一登とはよくハンバーガーや牛丼、ラーメンを食べに行っていた。
異世界の生活のせいですっかり忘れていたが、一度思い出すとスイッチが入ったかのように鮮明にその日々が浮かぶ。
「……ご飯はアルフォンスさんが作ってくれたパスタソースがあるしなぁ」
「一登ってあれじゃろ、先日泣いておった子じゃろ?」
「うん。覚え方がちょっとあれだけど、そうだね」
「なら呼べばいい。正体こそ隠すが、飯を一緒に食うくらいええじゃろう。ジャックたちとも顔を合わせておるし、春子ママさんとももちろん顔見知りじゃろ?」
「もちろんだよ。一登はよく泊まりにもきていたしね」
「じゃあ、いいんじゃないっすか。幸いなことに、サタンさんたちもお帰りになったっすから、小梅さんが迂闊なこと言わなければ大丈夫っすよ」
「そうかなぁ?」
夏樹的には、小梅たちが一登を受け入れてくれるのは嬉しいのだが、せっかく普通に暮らしている一登を万が一こちら側に巻き込んでしまうのもよろしくない。
それでなくとも、兄よりも一登は潜在能力が高いのだ。ちょっとしたきっかけで能力が開花する可能性もある。
その「ちょっとしたきっかけ」がどのようなものかわからない。時には、人外と接しただけできっかけになる場合がある。小梅はルシファーと名のつく強い天使だ。銀子も霊能力者だ。夏樹に至っては異世界の勇者なのだ。
「あの、夏樹くんが心配しているのもわかるっすけど、あの兄の弟ならいずれ力に目覚めると言うか、十分に非日常に足を突っ込んでるんじゃないっすかね。そりゃ、こっち側に関わらないのが一番っすけど、それで夏樹くんとの距離ができちゃうのもなんか違うって言うか。事情を知らない子からしたら、避けられているように思っちゃうでしょうし。なら、今まで通りに付き合って、こっち側がバレちゃったら事情だけ教えるくらいにしておけばいいんじゃないっすかね。実際、霊能力がなくてもこっち側に関わる協力者や理解者はいるっすから。あまり難しく考えなくてもいいっすよ」
「銀子はもう少しちゃんと考えた方がええんじゃないんか?」
「いやー、昔っからそういう難しいことは考えるの苦手で。あ、でも、アドバイスするといきなりカミングアウトしても頭おかしいみたいな反応されますからね。高校生のとき、仲が良かった子に霊能者であることを言ってみたんですけど、痛い子扱いされて疎遠になりました」
「悲しい!」
「いきなりカミングアウトする銀子が悪いじゃろ!」
もし夏樹が一登から「頭大丈夫?」みたいなことを言われたら、ちょっと泣くかもしれない。
だが、霊能関係に関わっているから、一登を関わらせたくないから、という理由で距離を取るのも嫌だと思う。
銀子の助言を受け、あくまでも一登に友人として変わらず接しようと決めた。
夏樹は一登に紹介したい人たちがいるから、家でご飯を食べよう、と返事をするのだった。
しばらくして。
「な、夏樹くん! 血まみれの人がいるんだけど! 救急車呼ぶなって言われて、なぜかこの家に連れてくるように言われたから連れてきちゃったけど、知り合いなの!?」
「アルフォンスさん!?」
夏樹がどうこうするよりも早く、ファンタジーに巻き込まれた一登が負傷しているアルフォンスを担いでやってきたのだった。