軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

28「襲撃なんじゃね?」

アルフォンス・ミカエルは、サタンとルシフェルと共に由良家を出ると、父ミカエルとガブリエルに小梅の婚約者として資格がないことを報告に行こうと翼を広げた。

日本の食材にとても興味があるという運命の女神ノルン三姉妹のためにエコバッグをパンパンにするほど買い物をして上空を飛んでいると、

「こんにちはー」

アルフォンスのさらに上から、ひとりの青年が降ってきた。

「――な」

青年はただ降ってきただけではない。

殺意も敵意もないくせに、頭部を狙った鋭い蹴りを放ってきたのだ。

咄嗟に腕で防御するが、そのせいでエコバッグから食材が落ちてしまう。

幸い、下は川だったので人にぶつかることはないだろうが、せっかくの土産を台無しにされてアルフォンスは襲撃者を睨んだ。

「誰だ、お前は?」

襲撃者は二十歳ほどの青年だった。

顔立ちは日本人だが、他の血も入っているのだろう。雰囲気が、先ほど会った夏樹や銀子とは違う。

百八十を超える長身であり、足も長く、すらりとしている。

なによりも驚くべきなのが、人間でありながら平然と宙に立っているのだ。

「霊能力者、だな。それもかなりの強さを持つと見た」

「いやー。大天使ミカエルの息子さんにそう言ってもらえると嬉しいですよ」

青年は人懐っこい顔をするが、アルフォンスは警戒を引き上げる。

いきなり狙われる理由は不明だが、襲撃者は自分のことを知っていた。

黒のスリムジーンンズと黒いシャツを身につけ、少し癖のある黒髪を背中まで伸ばしている。

よく見れば、服は少し汚れ、黒髪も伸ばしているのではなく、伸びっぱなしという印象だ。

肉体がすらりとしているのも、ただ細いだけだ。

「ちゃんと飯を食っているのか?」

「まさか天使様にそのように心配してもらえるなんて、嬉しいかな。ご飯は最近食べていないんだよ。でもね、あなたを倒せば、しばらく食事に困らないお金をもらえるんだ」

「雇われ者か」

「本当に申し訳ないと思っているんだよ。あなたに恨みはないし、どちらかと言うと神様を信じて祈ったこともあるんだ。なのに天使を襲うなんて……嫌だよね」

「なら」

「きっとあなたは優しそうだから、やめろ、とか飯を食わしてやる、とか言ってくれるんでしょうけど、遅いかな。契約をしてしまったから、僕のすべきことは決まっている」

「――魔族と取引したな?」

青年は曖昧に笑うだけで答えなかった。

だが、アルフォンスは確信する。

魔族の中には契約を重要視する者が多い。契約に縛られる者もいる。同時に、契約違反を絶対に許さない。特に、人間が魔族との契約を破ろうものなら、親類縁者まで殺される場合だってある。

金のため、食事のためなら、アルフォンスだって提供できた。

短くとも会話をすれば、青年が悪党ではないことはわかる。生きるために、霊能力を使う者もいるのだ。それを駄目だとは思わない。

「残念だ。実を言うと、俺は料理が得意なんだ。食べさせてやりたかったぜ」

「僕もあなたの料理を食べたかったかな。でも、巡り合わせが悪かったってことで。恨まないでくださいね。あ、そうそう。できれば抵抗しないでくれると嬉しいかな。お腹が減っているから力が出ないし、周囲に被害も与えたくないからさっさと倒れてくれることをお勧めするよ」

「ぬかせ! 仮にも大天使ミカエルの息子だぞ! 敗北するのはお前の方だ!」

純白の翼を広げたアルフォンスは、神力を爆発させる。

父には及ばないが、ミカエルの息子だ。それなりに力を持っている。

アルフォンスの右手に、炎を纏った剣が握られた。

「おおっ、さすが天使様だ! すごいすごい! じゃあ、僕も頑張ろう!」

「――な」

青年から放出された霊力は、人間ではありえないほど強力だった。

かつて古の時代。英雄と呼ばれる存在がいた。彼らを上まわるほど強い。

「よいしょ、っと!」

虚空を蹴った青年が一瞬でアルフォンスに肉薄すると、蹴りを放った。

長い足が鞭のように振るわれ、迫り来る。

アルフォンスは、青年の足を焼き斬るつもりで剣を振るった。

しかし、

「ありえん!」

炎剣は青年の霊力の篭った蹴りによって砕かれた。

「さようなら」

青年の蹴りはそのままアルフォンスの脇腹に直撃する。

骨が砕ける音と、肉が潰れる音が肉体を通じて耳にまで届いてきた。遅れて全身がバラバラになってしまったような激痛が駆け巡る。

アルフォンスはそのまま川の中に蹴り落とされた。

「上がってこないね。神力も感じなくなった。死んじゃった、でいいよね」

青年は川から上がってこないアルフォンスを探るも、気配もなにもない。

殺すつもりで蹴ったので、死んでいればいいし、隠れているだけならそれはそれで構わない。

「ごめんね、天使さん。だけど、こっちも仕事だから。よし! 気持ちを切り替えよう。じゃあ、とりあえず連絡してお金をもらわないと。今日はみんなで白米だ!」

青年は川に向かって一度だけ頭を下げると、背を向けたのだった。