作品タイトル不明
60「新たなイベントの予感じゃね?」①
七森千手は不意に背後を振り返った。
「――っ、どこかで俺のツッコミを求められた気がする」
「ダーリン? ちょっと、ツッコミ疲れしているんじゃない? あたい、心配だよ。そろそろツッコミの勇者からツッコミの神になって、新たな神々からようこそ我が陣営にって迎えにきちゃうんじゃないの!?」
「ツッコミの神になんぞなってたまるか! そもそもツッコミの勇者ですらねえよ! なんで由良が海の勇者で、佐渡が大地の勇者で、三原が火輪の勇者ときて俺だけツッコミの勇者なんだよ! もっとかっこいいのにしてくれよ! 魔眼の勇者とかさぁ! あとな、俺のツッコミはお前にもしているからな! 今も!」
「あ、絶好調だった」
「絶好調じゃねえよ!!」
千手のマンションで、スラックスにシャツ姿の千手は読んでいた新聞をくしゃり、と丸めた。
落ち着け、落ち着け、と深呼吸をする。
「そういえば、ダーリン」
「なんだよ?」
観葉植物に水をあげている虎童子は、ハーフパンツにオーバーサイズのTシャツを着ている。
動きやすいラフな格好を好む虎童子は、一見すると快活な女性だ。
「パピーが電話欲しいって言ってたよ?」
「パピーって誰!? 父親ってことだよな!? 酒呑童子か!?」
「あんなおっさんに連絡なんてしなくていいから。そっちじゃなくて、ダーリンのパピーだよ」
「俺にしたら、それこそあんなおっさんに連絡しなくてもいいからって感じだよ」
「またまた、照れちゃって」
「照れてねえよ! 先日の俺とあのおっさんの様子を見ていたよな?」
「思い出すだけで涙が出てきそうな、感動の親子の再会だったもんね」
「……あれ? 虎童子だけ別の世界に行っていたりする?」
千手の記憶が正しければ、父親と感動の再会をした記憶はない。
数年の間停止していた父親が、愉快なことになっていたのは知っているが、断じて感動の再会はしていない。
「ていうか、マジでお前、あのおっさんと連絡取るのやめろよぉ」
「もうっ、嫉妬しちゃって! ダーリンったらか・わ・い・いっ!」
「……あー、しんど。本当にしんど」
「心配しなくても、義理の娘としてお父様の連絡とっているだけだから、気にしなくていいのに」
「違うよ? 俺の心配はそこじゃないんだよ?」
千手は動揺を隠せない。
このままでは、本当に外堀を埋められる。
すでに外堀を埋められつつある、友人神無征四郎を思い出し、彼もこんな気持ちだったのか、と涙が出そうになった。
「それで、クソ親父はなんだって言うんだ?」
「――えっと、なんだっけ」
「おい!」
「あ、思い出した。水無月俊平って雑魚が向島市に戻ってきたって」
「誰だそれ!?」
■
水無月家と街を繋ぐ竹林の入り口に、着物をきた四十半ばの男性が立っていた。
番傘をさして、目元をかくしているため、どのような表情をしているのかわからない。
そんな男の視線の先には、自転車に乗った水無月都がいる。
彼女は何やらウキウキしている。
「今日はっ、お姉ちゃんのお手製ハンバーグっ! お姉ちゃんの可愛い御手手で練られたひき肉が羨ましいなぁ!」
男は雰囲気を出しながら、近づく都に声をかけた。
「――久しいな、都」
「お姉ちゃんのハンバーグは宇宙一ぃいいいいいいいいいいいいいいいい!」
男の声は、都の叫び声に消えた。
「えぇ……」
そのまま自転車で抜き去られてしまう。
「え? スルー? わざわざ雰囲気作って接触したのに、アウトオブ眼中!?」