作品タイトル不明
61「新たなイベントの予感じゃね?」②
七森千手は、本当にわからないと首を傾げた。
「水無月俊平? 水無月ってことは、水無月家か? 水無月家の雑魚が戻ってきたってどういうことだ?」
「ダーリン、ダーリン、そろそろお腹すいた」
「今!? クソ親父からの伝言を聞いた俺が、水無月俊平って誰だって考えているのに晩御飯の話!?」
「あたい的には、どこのどいつか知らない奴よりも今日の晩御飯の方が大事なんだけど」
「そりゃ、そうなんだろうけどさ」
気持ちはわかるが、切り替えが早すぎる。
「ていうか、お父様に聞けばいいじゃん!」
「……電話したくない」
「メッセージでもいいじゃん」
「あの親父と連絡をとりたくない」
「……ダーリン、子供じゃないなんだから駄々こねないでよ」
「これ、駄々こねた内にカウントされちゃうの!? だって、あの親父だよ!? この間、会っただろう!? あんな面倒くさそうなおっさんに連絡したら、もっと面倒くさくなるような気がするんだけど!」
「え? でも、あたい、メッセージをやり取りしてるよ?」
そういって虎童子がスマホの画面を見せた。
「うわぁ、あの親父……絵文字とかスタンプ多用してるんじゃん。めっちゃ現代にすぐ馴染んでるじゃん。びっくりだわ」
「かわいいじゃん!」
「かわいくねえよ! あと、虎童子! お前な、俺の寝顔とか着替えとかをあのおっさんに送るんじゃねえよ! なんで共有してるんだよ! じゃなくて、お前もそもそも俺の写真を撮るんじゃねえよ!」
ツッコミを繰り返し、千手はぜーはー、と肩で息をする。
さすがにツッコミ役とはいえ、ツッコミどころが多すぎるのは問題だ。
「ダーリンの代わりにあたいがお父様と連絡とってあげる」
「ちょ、やめ」
止めようとする千手より早く、素早いスマホ捌きで虎童子がメッセージを送ってしまった。
じゃーん、と画面を見せてくるが、一瞬の出来事だったのにとても長文だった。
「……おま、なんてことを」
メッセージに既読がつく。
どのような返事が来るのか、千手が身構えていると、「ぴんぽーん」と部屋のチャイムがなった。
「……誰だ? 回覧板か何かか?」
一応は、近所付き合いもしているので、出ないわけにはいかない。
千手はインターホンのモニターを操作して、「ひっ」と小さな悲鳴をあげた。
「――パパ、来ちゃった」
千手の父親であり、七森家当主。――七森康弘がそこにいた。
「ホラーすぎだろ! なんでメッセージの返事の代わりにきてるんだよ! 仕方がねえ、居留守使うか」
「……居留守を使おうとしている千ちゃん。もし、居留守を本当に使ったら、パパはここで号泣する」
「早く入りやがれ!」
千手は負けた。
こいつは絶対にやる、とわかってしまったので、心が折れてしまったのだ。
鍵を開けてやると、にこやな康弘が部屋の中に入ってくる。
「やあ、パパだよ!」
「お父様、お久しぶりです! ささ、どうぞ! お茶でいいですか?」
「ありがとうねぇ。いやぁ、気の利く娘さんだ。こんな良い人と結婚できるなんて、千手は果報者だなぁ!」
「まあ、お父様ったら。それほどでも――あります」
はっはっは、と和やかに会話をする虎童子と康弘から視線を外し、千手は窓の向こうを見た。
暗くなった向島市の街並みと、少し気の早い輝く星が見える。
「……引っ越したい」
ちょっと泣きそうだった。