作品タイトル不明
間話「10万人の壁じゃね?」
――青森某所。
さまたんの畑と愉快な仲間たちは、野菜泥棒の一件以降平和だった。
マモンはまもんまもんと動画をアップし、周平がラブコメをはじめてやつれ、インドネシアから出稼ぎにきているモハマッドは生活に余裕が生まれ、フランスから国際結婚を機に青森に移住してきたオーレルと雅美の間に最近命が宿った。
「珍しく平和だなぁ」
「――さまたん、様。まもんまもんと失礼します」
「……おう。どうしたの?」
神妙な顔をして、正座するマモンにさまたんも姿勢を正す。
今日の仕事は終えて、風呂と夕食と晩酌をすべて終え、そろそろ眠ろうかとしていたところに、マモンのこの表情だ。
何かあったのかもしれない、と気を引き締める。
「何か、あったのか?」
「まもん」
肯定だった。
いつもは、何があってもまもんまもんと大騒ぎするマモンが無駄に静かだ。
よほどのことが起きたのかもしれない。
さまたんに緊張が走る。
「――まもんまもん……実は、もう少しで動画の登録者が十万人にまもんまもんと届きそうなのでまもんまもん」
「なん、だと」
大事件だった。
弱小チャンネルとして自己満足で始めていた動画配信ではあるが、マモンの登場によって登録者が跳ね上がった。
最近では収益もそこそこ入ってくるので、さまたんの晩御飯とお酒がちょっと豪華になったのは言うまでもない。
――いつか届くかもしれない。
そんなことを思ったことがないと言ったら嘘になる。
頂に届くことができずとも、ひとつの区切りとして目指してみたいとこっそり思っていたのが十万人だ。
もちろん、十万人の登録者というのは簡単に集まるものではない。
そのことを十分に理解しているからこそ、緊張し、動揺しているのだ。
「ショート動画をまもんまもんとあげていた甲斐がありました」
「……最近は『マモンさんマモンさん、これ作って』って亜子ちゃんにやらせていたもんな」
「まもん!」
マモンが頼まれた料理をして、亜子が美味しいと可愛い声で言うまでがお約束だ。
たまに失敗しているし、微妙な味もある。
特に台本もなく行き当たりばったりでやっているので、リアリティーがあって良しと言ってもらえている。
さまたんは、マモンへのツッコミをいつの間にか動画に撮られていて「つっこみ上司さまたん」と呼ばれるようになった。
「そうか、届くのか」
「まもんまもんと届くかもしれません。まずは、このまもんまもんなタブレットをご覧くださいまもんまもん」
「おっと、いきなり高性能な普段使いには必要ないだろうタブレットが出てきたぞー? 新品だなぁ、いつ買った?」
「そ、それは今回のお話には関係ないでまもんまもんなので」
「あとでちゃんと取り調べするからな」
「……まもん」
しょんぼりするマモンからタブレットを受け取り、登録者の数字を確認する。
――まもんまもんチャンネル。登録者数99542人。
「お前のチャンネルじゃねえか!」
さまたんが反射でタブレットを投げると、マモンが全力でダイビングキャッチした。
「さまたん様! これはDV案件でまもんまもん!」
「知るか! ていうか、私のチャンネル89999人じゃねえか! なんで後ひとり登録しないんだよ! 9万人すら行ってねえじゃねえか! なんでサブチャンネルの方が登録者多いんだよ!」
「まもんまもん。コメント欄を見る限り、せっかくだからギリギリで止めておこうぜと、まもんまもんな視聴者たちが一致団結まもんまもんしているようでして」
「すんな!」
「リヴァ子チャンネルにはまだまだ遠いでまもんまもん。このマモン、いつになったら青森から出られるのか……まもんまもん」
「ちょいちょい出ている奴が、さも出ていませんみたいなリアクション取るんじゃねえよ! なんとか、メインチャンネルの登録者数を増やさねば! マモンに負けるのなんか嫌だ!」
――青森は今日も平和だった。