作品タイトル不明
51「フン・フナフプさんもわくわくじゃね?」
「たっだいまー!」
「リリス殿、買い出しを無事に終えました」
「ありがとう、助かるわ」
喫茶店の中に、黒髪の少女と、スラックス姿の男性が入ってきた。
「――うん?」
ふたりの気配は忘れるはずがない。
大地の獣ベヒモスと、マヤ神話からとうもろこしの神フン・フナフプだ。
両者とも、アマイモンとガープと同じく、ゴッド預かりになっていた。
「おっ、由良夏樹と愉快な仲間たちの三原一登だ! 杏もいる!!」
「やあ、異世界ではお世話になったね」
ショートパンツにオーバーサイズとTシャツを着ているベヒモスが元気よく手を振ると、夏樹たちの席にきておしぼりで手を拭くとポテトをむしゃむしゃ食べ始めた。
フン・フナフプは、カウンターに座り、軽く手を挙げる。
「みんな無事に出所できたんだね。あれ? アテーナーさんは?」
「ああ、彼女なら、関係者に謝罪の電話中だよ。やらかす寸前だったから、怒られているよ」
「神様も怒られるんだね」
夏樹とフン・フナフプが苦笑する。
地上に名を轟かすビッグネームが新たな神々につこうとしたのだ。
怒られくらいで済んでよかったと思う。
「あ、そうだ。フン・フナフプさん。例の件、ちゃんと言っておくから、ちょっと待っていてね」
「――っ、期待しているよ!」
瞳を輝かせるフン・フナフプは、夏樹が北海道の農家さんを紹介する約束をしている。
すでに母に仕事をしてある。
ただ、フン・フナフプが向島市から出るのは良いのだろうかという不安があるが、ゴッドを窺うと、相変わらず後光が眩しいが、両手で丸を作っているのが確認できたので、大丈夫のようだ。
「実を言うと、買い出しのついでにちょっと作業服を見てきてしまったよ。素晴らしいね、日本の作業服は!」
先日、テレビで見た、海外の旅行者のノリだった。
海外の作業服事情に詳しいわけではないが、基本的にジーンズ姿らしい。
古くから作業現場で愛用されているというのは聞いたことがあるし、炭鉱跡でジーンズが見つかったこともあるそうだ。
動きやすさ重視の夏樹はあまりジーンズを履かないが、似合っている人の格好を見ると「いいなぁ」とは思う。
「ていうか、フン・フナフプさんは、自分たちの神話に怒られなかったの?」
「一応は、両親からちょっとだね」
「ちょっとだけなんだ」
「畑を手に入れたいという熱い気持ちは理解してもらえたよ。北海道で仕事ができるかもしれないと言ったらとても羨ましがられたけどね」
「羨ましがられちゃったんだ!」
「私たちの神話は残っているが、神々は各地でのんびりこっそりしているからね。あまり動かないのさ。私はそんな停滞を嫌だと思い行動を起こしたのだが、最初に出会って勧誘してきたのが絶望の神だったからね」
「……出会っちゃいけない神だろぉ」
「結果的に、君たちと出会えたからよしとしたいよ」
ははは、と笑うフン・フナフプだが、夏樹としてはあまり笑えない。
話の通じる神だからよかったが、神としての格はかなり上だろう。
戦ってこそいないが、勝てる自信がない。
古代の神という未知なる存在は、相対しているだけでも怖い。
(――アマイモンさんとガチバトルした時の俺でも勝てるかどうか。サタンさん、花子さん、月読先生、すさすさ、天照大神様、リリスさん、さまたん……それにフン・フナフプさんとか異世界よりもおっかない神や魔族多すぎて地球怖いなぁ)