作品タイトル不明
48「ガープさんの就職が決まったんじゃね?」
ガープの運転は、控えめに言って安全運転だった。
ぴたり、と制限速度を守るお手本のような走り方だ。
途中、信号のない横断歩道に歩行者がいれば、遠くから確認し、しっかり止まる。
当たり前のことではあるが、その当たり前が疎かになってしまう人が多い昨今、ガープの運転は優しかった。
――魔族らしくはないが。
「ねえねえ、ガープ」
「ガープさんって言えよ、由良夏樹!」
車の助手席に座る夏樹がガープに疑問を投げかける。
「アマイモンさんの出所祝いってどこでやるの?」
「……出所っていうんじゃねえよ。勘違いされるだろう! アマイモン様よりも素晴らしい魔族はいない!」
「そういうのいいから」
「いつか、俺とアマイモン様との出会いから現在までを語ってやる! 覚悟しておけ!」
「……あ、はい」
「ごほん。そもそもアマイモン様は賑やかなことは好ましく思う方だが、自分のことになると謙虚になられるお方だ。大々的なパーティーをやりたいところだが、望まないだろう。むしろ、ちょっと気まずくておろおろしてしまうはずだ。そんなアマイモン様も見たいが、臣下として主人を困らせるのはよくない」
「それは、そうだねぇ」
祝ってあげたい気持ちがあっても、押し付けになってしまえばよくないことだ。
「気持ち」が一番である。
「とりあえず、みんなでアマイモン様をお迎えして、わちゃわちゃして、最後に胴上げすればきっと喜んでくださる!」
「……謙虚だってわかっているのなら、胴上げはやめてやれよ」
「……そうかな?」
「そうだよ!」
ミラー越しに、ガープは一登と杏を伺った。
ふたりも胴上げは適切ではないと思ったようで、うんうん、と夏樹に同意して頷いている。
「そういえば、アマイモンさんってこれから向島市で住むんでしょう?」
「俺の家に来ていただくことになっている」
「仕事は何か探すの?」
「――由良夏樹! 貴様、アマイモン様に働けとでもいうのか!?」
「べ、別にただ聞いただけじゃん! そんなに怒ることかな!?」
「当たり前だ! アマイモン様はどっしり構えていてくださればいいのだ! 生活費は全て、このガープがすべて出す!」
「……それだとアマイモンさんがヒモになっちゃうんだけど」
「――なん、だと?」
「気づいてなかったんかーい!」
信じられない、と目を見開くガープだったが、夏樹たちからするとお前が信じられないとツッコミを入れたい。
「えっと、ガープさんは何かお仕事するの?」
杏の問いかけに、ガープは咳払いをすると、急にドヤ顔になった。
「すでに介護施設の面接は受かっている! しっかり働いて介護士の資格を取るんだ!」
「ちゃんとしているね!」
「しているとも! 副業でリヴァ子の動画編集の手伝いもすることになっているぞ!」
「まさかの二足の草鞋だったね! すごい、すごいよガープさん!」
杏が拍手すると、ガープのドヤ顔がさらに濃くなった。
「それほどでも――あるがな!」
「あるんだ!」
「あるんだ……」
「あるんだね」
ちょっとテンションの高くなったガープに、夏樹たちのテンションが少し下がった。